西の方へ瞳（ひとみ）を落すと鈍（にぶ）い焔（ほのお）が燻（いぶ）って来るように、都会の中央から市街の瓦（かわら）屋根の氾濫（はんらん）が眼を襲（おそ）って来る。それは砂町一丁目と上大島町の瓦斯（ガス）タンクを堡塁（ほるい）のように清砂通りに沿う一線と八幡（やわた）通りに沿う一線に主力を集め、おのおの三方へ不規則に蔓延（まんえん）している。近くの街の屋根瓦の重畳（ちょうじょう）は、躍（おど）って押（お）し寄せるように見えて、一々は動かない。そして、うるさいほど肩（かた）の数を聳（そびや）かしている高層建築と大工場。灼熱（しゃくねつ）した塵埃（じんあい）の空に幾百（いくひゃく）筋も赫（あか）く爛（ただ）れ込んでいる煙突（えんとつ）の煙（けむり）。

谷間のような所にかたまった集落

家々がくすんだ色でごちゃごちゃと建つ

樋（とい）のように細い町並

ぼんやりと青い空気の底に沈む淡くかすんだ街並み

（夢かと思うような谷の眺めに）ここでこのまま日の暮れるまで坐っているということは、なんという豪奢な心細さだろう

駅を出た電車は少しずつスピードを上げる。街の灯はだいぶまばらになった。もうすぐ電車は多摩川の鉄橋を渡る。そこを境に気温がぐんと下がって、窓が白く曇ってくるだろう。秋の終わりだ。

青い陶器の胸のようにふくれた水平線

そこらの畑には土が眼を開いたようにところどころぽつりぽつりと秋蕎麦の花が白く見えている。

窓の外を過ぎ去っていく臨海工業地帯の味気ない風景をあてもなく眺めた。