霜に犯されかかった鬢（びん）のあたり

吹雪が白い渦を巻く

刻々と暗色を深めながら砕け散る空と海は、もうどこが境界線なのか判別できなかった。雪も天に向けて逆巻いていた。

ガラス窓の外で、雪が唸り始めた。

福井方面から遅れて入ってくる列車のすべてが、屋根にぶ厚い雪を積もらせていた。雪は車体やガラス窓にも一面にへばりつき、それがはるか 彼方 でうねっているのであろう吹雪の 凄 さを教えていた。

繭（まゆ）の中の蚕のように人を包む雪

しんしんと粉雪が音もなく降り続ける

霜は真っ白で、すべての影は凍りついて、カーンと耳が聾になってしまいそうな寒気だった。

船のあらゆる部分が急にカリッ、カリッと鳴り出すと、水に濡れていた甲板や手すりに、氷が張ってしまった。船腹は白粉（おしろい）でもふりかけたように、霜の結晶でキラキラに光った。

（雪が降り積もる夜、病室にいる）街の音も病院の音も、全部雪に吸い込まれてしまって無音だった。この病室が時間からも場所からも切り取られて、宙に浮いているような気がした。