弾丸は額を貫き、流れた血の筋がこめかみまで続いていた。苦悶の色はない。薄く開いた唇から汚れた歯がわずかに見えた。

死相は、黄ばんだ肌の上にも、薄くなった鼻すじにも、色濃く漂っていた

熱に浮かされながら一歩一歩なんの心のわだかまりもなく死に近づいて行く貞世の顔が神々（こうごう）しいものにさえ見えた。

死者の生なましく白く、草のような額

開きかかった薔薇のような笑みが、唇の上に開きかかっている死に顔

死人のような顔で寝る

色の白い面長で美しい顔の秋田美人

むっちり肉付いたほっぺた

ごつい顔した男

すみれは一般的な意味あいではとても美人とは言えなかった。頰がこけて、口はいささか横に広がりすぎていた。鼻は小さくて少し上を向いていた。表情は豊かで、ユーモアを好んだけれど、声をあげて笑うことはほとんどなかった。背が低く、たとえ機嫌の良いときでもつっかかるような口のきき方をした。口紅や眉ペンシルなんて生まれてから一度も手にしたことはなかったと思う。ブラジャーにサイズがあるということだって、正確に知っていたかどうかあやしいものだ。

胸が裂け、細かく割れ、そこに冷え冷えとした風が吹き込み、小さくざわめくような感覚になり

すみれの存在が失われてしまうと、ぼくの中にいろんなものが見あたらなくなっていることが判明した。まるで潮が引いたあとの海岸から、いくつかの事物が消えてなくなっているみたいに。そこに残されているのは、ぼくにとってもはや正当な意味をなさないいびつで空虚な世界だった。薄暗く冷たい世界だった。ぼくとすみれとのあいだに起こったようなことは、その新しい世界ではもう起こらないだろう。ぼくにはそれがわかった。

寿命をまっとうする

風が吹いて、無精鬚はかすかにゆらいだ。死骸は、頬のあたりに微笑をうかべているように見えた。

（亡くなった我が子の）押しつけられたなきがらのよろめくような重さを、乙松は忘れない。