夜はやや更（ふ）けて、天地は黒い塀を四壁に立てたように静まり閉す

飾窓の光がおびただしく街路へ流れ出ている。

遠くの樹に風が黒く渡る。と、やがて眼近い夾竹桃（きょうちくとう）は深い夜のなかで揺れはじめる

煤を流したような夜の暗さ

漆黒の夜

日が傾き出したのであろう。さっきから見ると、往来へ落ちる物の影が、心もち長くなった。

明るさは急速に増しつつあった。林に行き着き振り返ると、空は既に 茜 から青に移り、遥かに雲に閉された中央山脈の主峰の前に、 端山 が緑を現わし始めていた。

陽 が落ちかけて、 川面かわも に朱色のさざ波が 閃 めき始める

西の空がかすかに赤かったが、それは街並に落ちるまでには至らなかった。光は、 暗澹あんたん と横たわる大気を射抜く力も 失せ、逆にすべての光沢を 覆うかのように忍び降りては死んでいく。ときおり、狂ったような 閃光 が 錯綜さくそう することはあっても、それはただ 甍いらか の雪や市電のレールをぎらつかせるだけで終わってしまう。

夕暮の風が海を渡りそして草を揺らせる間に、夕闇がゆっくりと淡い夜に変わり、幾つかの星がドックの上にまたたき始めた。