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不意に何かが鼓膜を揺らした。蜜蜂だ、とわたしはすぐに分った。それは強くなったり弱くなったりせず、同じ波長で一直線に響いていた。辛抱強く耳の奥に気持ちを集中させていると、羽がこすれ合う時のかすれるような音も確かに聞くことができた。雨の音はそれと交わることのない、ずっと底の方で淀んでいた。今わたしの中で呼吸しているのは、蜜蜂の羽音だけだった。わたしはその平坦で終わりのない音を、学生寮がかもし出す音楽のように聞いた。
小川 洋子 / ドミトリイ「妊娠カレンダー (文春文庫)」に収録 ページ位置:90% 作品を確認(amazon)
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耳を澄ます・聞き耳を立てる
虫が飛ぶ・羽音
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前後の文章を含んだ引用
......ンラック、ペン立て、そんな部屋中の品物に順番に視線を移しながら、夕闇に目が慣れるのを待った。すべての物が眠りに落ちたように、ひそやかだった。 その静けさの中で、不意に何かが鼓膜を揺らした。蜜蜂だ、とわたしはすぐに分った。それは強くなったり弱くなったりせず、同じ波長で一直線に響いていた。辛抱強く耳の奥に気持ちを集中させていると、羽がこすれ合う時のかすれるような音も確かに聞くことができた。雨の音はそれと交わることのない、ずっと底の方で淀んでいた。今わたしの中で呼吸しているのは、蜜蜂の羽音だけだった。わたしはその平坦で終わりのない音を、学生寮がかもし出す音楽のように聞いた。窓の向こうで、蜜蜂とチューリップは夕闇に紛れていた。 その時、わたしの足元にしずくが一滴落ちてきた。それは目の前をゆっくり落ちていったので、いくら夕暮れでも一粒......
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耳を澄ます・聞き耳を立てるの表現・描写・類語(音の響きのカテゴリ)の一覧 ランダム5
ドアの向こうに誰かいます。今のかすかな物音は確実に、誰かが立ち聞きしているとしか思えない物音でした。
筒井康隆 / 文学部唯野教授 amazon
伊吹の声が、私のすぐ横で薄暗い空気を揺すっている。 私はその振動を、鼓膜で齧るようにゆっくり耳の中に吸い込みながら歩いていた。
村田 沙耶香「しろいろの街の、その骨の体温の」に収録 amazon
(聞き分ける)比丘尼 が木魚の音を聞き分けるごとく
夏目漱石 / 吾輩は猫である
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虫が飛ぶ・羽音の表現・描写・類語(昆虫・虫のカテゴリ)の一覧 ランダム5
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「昆虫・虫」カテゴリからランダム5
白い蝶のむれは白い花畑のように数を増して来た。
川端 康成 / 眠れる美女 amazon
虫たちの声が地の底からうねってきた。
宮本 輝 / 螢川「螢川・泥の河(新潮文庫)」に収録 amazon
(こおろぎの)雄の、羽根を擦り合せている音は、まるで小声で女を呼ぶような甘くて物悲しいものであった
林 芙美子 / 泣虫小僧 amazon
(温室の中でたくさんの蝶が、)初めも終わりもない意識の流れを区切る束の間の句読点のように、あちこちに見え隠れしていた。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
「音の響き」カテゴリからランダム5
声は風の途切れるように切れ、また遠ざかる。
遠藤周作「沈黙(新潮文庫)」に収録 amazon
とっとっとっとっしずかに走るのでした。その足音は気もちよく野原の黒土の底の方までひびきました。
宮沢賢治 / 鹿踊りのはじまり
遠く高い空の果てから、冷たい風の響きが悲しげに燈多き街の方へと走って行った
永井荷風 / 夢の女 amazon
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