断ち切れない愛情

僕の子供を産んでほしい、必ず産んでくれるね、懇願され抱きしめられると、それだけで十和子は、下腹に抱え込んだ臓器に暗い血潮が充ちてくるような、すでに何かがそこで育ちはじめているような熱感を覚えた。

魂の記憶に刻まれた遠いあこがれのように愛しい。

もし私が男でその機能があったら、抱いていただろう。もし私が妊婦だったら、大きなおなかにそっと両手を添えただろう。そういう感情を瞬間、強く抱いた。

人から愛されるということは、生ぬるい日向水（ひなたみず）に浸っているようなもの

抱きしめても抱きしめても飽き足らないほどの愛着をそのまま裏返したような憎しみが、葉子の心を火のようにした。

こうして離れていてふと、私の知っている彼のいいところを思うと、あまりのすばらしさに胸が苦しくなる。その文章の才、礼儀正しさ、行動の大胆さ、おおらかさ、手の形、声の響き……等。 　そして悪いところやずるいところを考えると、あまりの憎しみに息が苦しくなる。私を旅に誘ったりする弱さ、妹の死に対するある種の冷酷さ、ろくに日本に帰らないくせに、来るとなると会いたがるずるさ……等。 　ほかの人にはこんなに感じないひとつひとつの感覚が活性化される。その振幅がそのままその人を思う心のベクトルの大きさだ。人間は苦しい。不完全なひとりが、不完全なひとりを思い丸ごとを受け入れようと苦しむ様は、なぜかそれぞれ胸のうちの 嵐 とは別のところで、ときどき妙に生き生きとしたあるひとつの像を結ぶ。 　人間がかろうじて日々を生きているわけみたいなもの。 　いちめんに咲いた桜並木みたいに大盤振る舞いの美しくやさしいエネルギー。 　たださらさらと花びらが散り、陽がさして風が吹き、はるか続く木々がいっせいに揺れて舞い狂うピンクとすきまの青空の甘い色に圧倒されて立ちつくす。知っている。一度しかなく、一瞬で終わる。でも自分がその一部に永遠に溶け込んでいる。ワンダフル、ブラボー！　そういう瞬間を、人は苦しんでも求める。

離れると云えばこのように全力的に傷け合い、はたき合い、つまりはその勢いで離れなければ、離れることも出来ないほど深く愛し合っている

自分は、沙金（しゃきん）に恋をしている。が、同時に憎んでもいる。

癒着するように憎み合うことと愛し合うこととがどうちがうのかもわからない。

憎しみが自分の体の力を奪う

胸糞が悪い

憎体

微かな憎しみを覚える

憎悪と涙が心に溢れた。

自殺を考える人の心理ってものは宙ブラリンなものなのでしょうね《…略…》死のうという決意がある反面、なんとか生き伸びたいという強烈な願望も同時に胸の中にあるんですね。

自分があまりにも複雑な気持ちなのに気づいた。だから過去の知識のなかからでは、この気持ちを表すことばが総動員しても何も出てきやしなかった。そのくらい、説明できない感情を抱いた。

懐かしさ、怒り、哀しみ、恨み、それら様々な感情がからみあい胸の裏側にぶつぶつ音をたてていた。

痛みさえなおしてくれれば殺されてもいいという心と、とうとう自分に致命的な傷を負わしたと恨む心とが入り乱れて、旋風のようにからだじゅうを通り抜けた。

心配やら嬉しいやら、嬉しいやら心配やら、心配と嬉しいとが胸の中で、ごったになって争うたけれど、とうとう嬉しい方が勝を占めて終った。

邦彦は、まち子のことばかり考えた。道頓堀という満艦飾の船を、並んで見つめていた着物姿の女は、いまかぐわしい 匂いを放ちながら、邦彦の心にまといついてきて離れようとしなかった。

むしょうに水に入りたくて、苦しくなった。 渇望 だった。そして心はついせんだって、狂ったようにプールに通っていた日々を涙が出るほど 懐かしむ。頭をかきむしるほど、泳ぎたい。

猫を殺すほどの力を持つという好奇心

飢えきった凶暴な恋心

心のしまりがなくなる

心が曇る

考えれば考えるだけの億劫と、重くのしかかるものが大阪、母子、を思うと、その字づらからその音からその方角から心象から、いつもわたしの背後に向かって一切の音のない、のっぺりとした均一の夜のようにやって来ては拭いきれぬしんどさが、肺や目をじっとりと濡らしてゆく思い。

心はさあっと、水をかけたように冷たく冴えかえって来ました。

心地いい疲労感

嫉妬（しっと）とか競争心とかいう激しい女の情焔（じょうえん）を燃えさす

不思議な感情の渦巻（うずま）きの中に心を浸していた

心を指で触られているかのように切なかった。ときめきすぎて、逆に苦しくて、解放されたいのともっと求めたいのと。相反する感情に引き裂かれて

心の中で孤独と憎悪がもつれ合う

嬉しいような悲しいような心地

心の中に吹きすさぶ感情のあらし

馬鹿にしたように鼻で笑う

愕然とした泰山の表情が、みるみる雑巾を引き絞るように歪み始めた。

うらやましい。他人をうらやんだ瞬間に、それが自分に欠けたものだと気付くのが嫌で、何に対してもとがった見方をしていた時期なのに、しまった、と思った時にはもう十分に、あこがれのまなざしを二人に向けていた。

燃えるような怒りを抱える

一時間半ほど歩いただけだったが、電車の移動もあり、心地良くくたびれていた。

肋骨の内側が疼く

渇きのような愛の痙攣

説明のつかない、でも強烈な衝動に突き動かされ

恋焦がれる

片思いの矢印は特定の子たちに集中する。

誘惑的な目を向ける

三葉が笑うと──今になって、俺は気づく。世界までが、一緒になって喜んでるみたいだ。

胸が塞がるほどの恋情を覚えた。

娘の頬に涙のようにおれの精液がとび散って光っている

帰りに何となく別れ難くて軽く 会釈 をした。また会いたいな、と心から思った。

喜びと感動の涙

無念で残念で堪えきれないほど怒りの情

自殺を考える人の心理ってものは宙ブラリンなものなのでしょうね《…略…》死のうという決意がある反面、なんとか生き伸びたいという強烈な願望も同時に胸の中にあるんですね。

驚きと怒りで飛び上がり興奮して体を熱くする

奈落へ蹴落とされたような寂しさと焦り