冬枯の庭はいつか潤い、こまかに木の枝などを眺めると、仄かな艶や芽のふくらみが優しい早春を感じさせる日であった。

しのびやかに軽くくすぐるように、一日ずつ近づいてくる春

冬と春との入れかわる三月だ。

暖かになると、妙に着物の汚れが目にたってくる。母の着物も、ささくれて来た。

五か月の長い厳冬を牛のように忍耐強く辛抱しぬいた北人の心に、もう少しでひねくれた根性にさえなり兼ねた北人の心に、春の約束がほのぼのと恵み深く響き始める。

雪が放つ冷たくやさしい光

（雪の積もった階段）砂糖菓子を崩すようにそろそろと、一段めに積もった雪を踏んだ。

空が雪でも来そうに重い

白いすだれが幾重にも垂れ下がって視界を鎖（とざ）す

雪のせいで街の音はいつもと違って聞こえていた

よく晴れた雪だけの景色をしばらく見ていると、目がちくちく痛む

足あとひとつない草原は銀色の火口湖のように見えた。

雪は莟（つぼみ）を持った沈丁花（じんちょうげ）の下に都会の煤煙（ばいえん）によごれていた。それは何か僕の心に傷（いた）ましさを与える眺めだった。

石のように固く凍てついている雪

丘の家々は、石のように雪の下に埋れていた。

春の夜らしい水蒸気があたりに立ち込める

ちかちか輝く薄緑のレースで飾られる美しい春の森

それは恋によろしい若葉の六月のある夕方（ゆうがた）だった。

花曇りに暮れを急いだ日は疾（と）く落ちて、表を通る駒下駄の音さえ手に取るように茶の間へ響く。隣町（となりちょう）の下宿で明笛（みんてき）を吹くのが絶えたり続いたりして眠い耳底（じてい）に折々鈍い刺激を与える。外面（そと）は大方朧（おぼろ）であろう。

桜の花が雲に似てむらがり

枯れた枝がとげとげしく寒い空間をつき剌すように、緑色の苔のある黒い姿を風の中にさらしていた。

正月と同じくらいの巨大な行事に成長したクリスマスは、その年の通信簿を兼ねている。今年を充実して過ごし、人と良い関係を築けた人間はわいわいと親しい人たちと楽しいクリスマスが送れるし、一人でも充実した日々を送れた人ならクリスマスに一人でもべつに落ち込まずに淡々と過ごせるだろう。でもさびしがりやのくせに人間関係をおろそかにしてきた人や、私のように人間関係のごたごたを解決できないまま十二月を迎えた人間は、最低の通信簿をもらう。

季節は春。とはいえ四月の朝はまだ寒い。

赤松の間に二三段の紅（こう）を綴った紅葉（こうよう）は昔（むか）しの夢のごとく散ってつくばいに近く代る代る花弁（はなびら）をこぼした紅白（こうはく）の山茶花（さざんか）も残りなく落ち尽した。

木々の枝を覆っていた氷が水晶細工の森のように光り輝く