(電話機が)身を伏せている黒い小さな獣のように、彼の眼に映った。
吉行 淳之介 / 闇のなかの祝祭 作品を確認(amazon)
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(黒電話)狭くて急な階段の裏にそれは設置された。 形容しがたい丸み、暗号めいたダイヤル、耳にフィットするよう計算された受話器のカーブ、可愛らしげにクルクルとカールするコード。そうした何もかもがどこかしらおもちゃめいていたが、僕は最初からそれが、ただものでないことにちゃんと気づいていた。 とにかくその黒色は特別だった。一点の濁りもなく、濃密で、圧倒的で、気高くさえあった。両手に載るほどの大きさなのに、何を 企んでいるのか分からないふてぶてしさと思慮深さを併せ持っていた。そこに一つ黒い 塊 があるだけで、階段裏の薄暗さが奥行きを増すようだった。
小川 洋子 / 先回りローバ「口笛の上手な白雪姫」に収録 amazon
電話は特別な意味深い動物のようにわたしの前に横たわっていた。受話器の曲線や、プッシュボタンの溝や、しなやかにのびるコードが、エロティックな動物の姿態を連想させた。《…略…》電話は、一晩中ぴくりとも動かずにじっとうずくまっていることもあったし、時々明瞭な声を上げてわたしをびくっとさせることもあった。ベルが鳴って受話器を取る時、見知らぬ動物に触れる時のような小さなためらいがあった。
小川洋子 / 冷めない紅茶「完璧な病室 (中公文庫)」に収録 amazon
(電話機が)身を伏せている黒い小さな獣のように、彼の眼に映った。
吉行 淳之介 / 闇のなかの祝祭 amazon
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電話の向うで椅子にゆったりと座りなおし、脚を組んだような雰囲気が感じられた。
村上春樹 / ねじまき鳥と火曜日の女たち「パン屋再襲撃 (文春文庫)」に収録 amazon
(電話が突然切れる)ただぼくは──」と言いかけたところで、ぷつんと電話が切れた。まるで誰かがなたでロープを叩ききるみたいに唐突に、暴力的に。
村上春樹「スプートニクの恋人 (講談社文庫)」に収録 amazon
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