そのカフェは、温室じたての建物のなかにあった。

隣のテーブルのひとたちの殴りたくなるようなくだらない世間話

店の中には煙草とウィスキーとフライド・ポテトと腋の下と下水の匂いが、バウムクーヘンのようにきちんと重なりあって淀んでいる。

料理は客が変えてゆく。

洒落たオープンカフェで、白い 庇 が大きく舗道に向かってせり出している。庇の下の日溜まりの中にテラス席が並び、何組かの客が小さな丸テーブルを囲んで談笑しているのが見えた。

見渡すかぎり色と光とに溢れた不夜城の賑わい

（古びたバー）音楽が流れていないと店内はまるで海底のように静まりかえっていて、声が大きく響くような感じがした。

寒暖計の目盛りのように、乗客がホームにいくつかの列を作る

仕入れたそばから羽が生えたように売れていく

そこは決して立派な店ではなかったのだが、果物屋固有の美しさが最も露骨に感ぜられた。果物はかなり勾配の急な台の上に並べてあって、その台というのも古びた黒い漆塗（うるしぬ）りの板だったように思える。何か華やかな美しい音楽の快速調（アッレグロ）の流れが、見る人を石に化したというゴルゴンの鬼面――的なものを差しつけられて、あんな色彩やあんなヴォリウムに凝（こ）り固まったというふうに果物は並んでいる。青物もやはり奥へゆけばゆくほど堆（うず）高く積まれている。