職業柄毎日たくさんの女性客と接しているせいか、企みや裏がある人には気づく。数えきれないほどの人数と初対面をくり返すうちに、ふとした瞬間の目の動きや表情の翳りで、本音と建前が乖離していることを察する。

彼が 風呂 に入っているときなんの気なしに台所のワゴンの上を見たら１通の封書が目に止まった。 　ひとの手紙なんて見やしないし、まして女文字ではなかったのでどうしてまじまじと見てしまったのかわからない。 　でも何かひっかかる 宛名 の書きかただった。 　だから、反射的に中身を見てしまった。 　そんなことは生まれて初めてすることなのに、なぜか後ろめたさはなく、見なくてはという確信だけがあった。

するどい感覚が、恟（ぎょ）ッとして、うしろへ走った。

想像の奥の奥に、よもやと思いつつ

敏感なアンテナのように、人の言葉の裏にあるものを見分ける

思いもかけなかった考えがその時倉地の体に鉋（かんな）をかけるように走った。

我ながらの妙案に一人で感心する

思いつきの意見を勇み立って披瀝する

「それで、当然のことながら、お前はその考えには反対しているというわけか」 　溝口は状況判断の鋭いところをみせた。

想念が素早い小天使の翼のような軽やかさで、意識をかすめて飛び去って行く