蛙がいかに自分の声が遠くかつ遥かに響くかを矜（ほこ）るもののごとく力を極めて鳴く

池のほとりに立っていたら、チャポリと小さい音がした。みると、蛙が飛び込んだのである。つまらない。あさはかな音である。とたん私は、あの、芭蕉翁の古池の句を理解できた。

電気の消えたせまい部屋の中で、私はまるでお伽話のような蛙（かえる）の声を聞いた。

太棹（ふとざお）の三味線でも聴いているように、食用蛙が、ぼろんぼろんと《…略…》耳についていた。

河鹿は渓（たに）の石と見わけにくい色をしている

右往左往する若鰡（わかいな）の背が星明りに閃（ひらめ）く。

砂と見分けがつかない淡い影のようなカニ

カエルが置物のように正面を向いて座っている

蝉の抜け殻のような小さな蟹

列を作った三匹の雄魚は順々に海戦の衝角突撃（しょうかくとつげき）のようにして、一匹の雌魚を、柳のひげ根の束（たば）の中へ追い込もうとしている。雌は避けられるだけは避けて、免（まぬが）れようとする。なぜであろうか。処女の恥辱のためであろうか。生物は本来、性の独立をいとおしむためか。それともかえって雄を誘うコケットリーか。ついに免れ切れなくなって、雌魚は柳のひげ根に美しい小粒（こつぶ）の真珠のような産卵を撒き散らして逃げて行く。雄魚等は勝利の腹を閃めかして一つ一つの産卵に電撃を与える。