丸一昼夜眠っていない 朦朧 とした感覚をとおして、

もう六十時間くらい起きたまま机に向かっているのでしょうか。眼の裏に薄い膜でも張ったみたいに疲労と興奮が粘りついています。時折眼の前にもう一人の自分がすわっていて、せっせと紙の上に筆を走らせているのが見えます。

鉛のように重い眠り

瞼が乾いた石のように感じられる

長いハードな一日だった。犬のように眠りたい。

病人は暗がりの中で、灰色の石のように横たわっていた。

私は嵐の寝顔は美しいと思う。意外に長いまつげや、整った鼻すじを無限に見ていたい。

浴槽の底へ溺死体のように横たわって

とよが一人で昼寝をしていたが、その着物の前が乱れ、赤い腰巻の間から膝法師が僅かに覗いている。私は見てはならないものを見たと思い、かなり動揺する。

天保山（てんぽうざん）の安宿の二階で、何時（いつ）までも鳴いている猫の声を寂しく聞きながら、私は呆（ぼ）んやり寝そべっていた。

自分らの生活が予定通りはじまっているというわけだが――伸子は、しかし、何だかその生活に、自分を馴らしてしまうことができずにいるのであった。例えばある一つの晩餐会がここにある。料理は勿論、金縁の献立通りに燕尾服の給仕によって運ばれている。招かれぬ客もいないし、主賓が欠けているわけでもない。乾盃から卓上演説まで、すべて遺漏なくプログラム通り運ばれている。しかも、始めから終りまでその席に連なり、プログラムの予定通りの進行の証人となっているうち、その会合全体のうちに、自分が何の趣味も意味も感ぜず、突然変な不安にうながされて周囲を眺めまわすような場合がある。はたの誰一人、自分の感じるような屈託は持っていないと云う発見で、彼は自分を慰め得るであろうか。逆に、ますます自分のその場にそぐわない感じを強めるのであろう。 　伸子もそれなのであった。

何回も失敗して心の電池が切れてる

裁きを受ける女のように、首を垂れて青ざめている

時間は驚くほどゆっくりと流れた。それは天に向けてそびえ立つ巨大な機械装置の一個のボルトを思わせる冷ややかで硬質な三十分だった。

衰えなくなった風雨の音が眠気を誘い出す