（離婚）僕らはうまくやっていた。でも彼女が求めているもの、彼女が頭に描いているもの、と僕の存在の間には決定的な差があった。妻はコミュニケーションの自立性のようなものを求めていた。コミュニケーションが染みひとつない白旗を掲げて人々を輝かしい無血革命へと先導していくようなシーンを。完全性が不完全性を呑み込んで治癒してしまうような状況を。そういうのが彼女にとっての愛だった。僕にとっての愛とは不器用な肉体を与えられた純粋な概念で、それは地下ケーブルやら電線やらをぐしゃぐしゃと通ってやっとの思いでどこかに結びついているものだった。すごく不完全なものだった。ときどき混線もする。番号もわからなくなる。間違い電話がかかってくることもある。《…略…》僕は彼女に説明した。何度も何度も。 でも彼女はある日出ていった。

「私、一度世帯を持った事がありましてね。」

（離婚）夫婦の愛をつないできた絆は、長年の無視や苦痛のため擦り切れてしまった。

離婚のショックでノイローゼになって

一度結婚をしてみて、おかげで人生に忘れ物をしたような気分にならなくてすむし、結婚がそれほどすばらしいものとも思わない。

駅から家までの道のりを、月がていねいに照らしてくれている。

車に揺られながら荷物のように帰る

帰途につく

無事に帰れますようにと私は何かに祈らずにはいられなかった。

かたつむりが這うように渋谷に向かう