千枝が生まれたときのことを百合枝は思い出そうとしたが、まるで川上から桃が流れて来て、ぽんと割ると中から出て来たような感じだった。

大きかった腹は水素瓦斯（すいそガス）を抜いた風船のようにへたへたと縮んでしまいました。

食うものがあろうがなかろうが子供は芋の子のように出来て去年の暮れに八人目が生まれ

ねずみのようにたくさん子供を産む

恋というものは人間を若くする。酒と子供は人間を老いさせる

人間は死ぬと、一時間に摂氏一度の割合で体温は下降する

蜂は少し歩いて転び、また歩いて倒れた。季節の移るように自然と亡びてゆく、静かな死

命を削りながら人生を生きる

頭に切れ目を入れ、後頭部から額へと頭皮を剥いでいった。顔の表面、目や鼻や口の部分に、ゴワゴワとした剛毛がかぶさり、頭皮の白い裏側が無影灯にさらされる格好だった。皮一枚で顔が作られているのがよくわかる。安藤は、頭蓋骨をはずして脳を取り出した。

腐爛（ふらん）した子供の死骸（しがい）が二つ、裸のまま、積み重ねて捨ててある。はげしい天日（てんぴ）に、照りつけられたせいか、変色した皮膚のところどころが、べっとりと紫がかった肉を出して、その上にはまた青蝿（あおばえ）が、何匹となく止まっている。そればかりではない。一人の子供のうつむけた顔の下には、もう足の早い蟻（あり）がついた。