散歩は一年中楽しめるものであるが、特に春先がいい。ポカポカ陽気の中を、何の目的もなくブラブラ歩くのは楽しい。《…略…》秋の枯れ葉を踏んでの散歩もわるくはないが、春先の散歩とは少し趣を異にする。 　散歩はやはり春先がいちばん。 　よその家の庭先の、ようやく咲き始めた梅や桃の枝ぶりを見あげながら、ブラブラ歩いて行くのは楽しい。

そこを立ち去る事はできないほど、自然は絶えず美しくよみがえって行く。

小川のせせらぎの音が思いなしか明るさを増したよう

冬も過ぎて、梅が咲き椿（つばき）が咲くようになった。太陽の生み出す慈愛の光を、地面は胸を張り広げて吸い込んでいる。

一面を覆っていた雪が溶けて、沢の水が音を立てて流れ始める春の日

日が落ちて、春先らしい小寒さが忍び寄る

六月半ばだというのに暑い日が続いていた。夏の日のような青嵐が街路樹の枝を揺らし、白いシャツの胸元をはためかせた。秋から冬にかけて曇天しか見せない空もいまは力強く晴れ渡り、直線の陽射しを舗道やビルに注いでいる。

松も新しい緑にかわって、草も木も青い焔（ほのお）のようになった。

春とはいえ夕暮れになると、まだ未練がましい冬の気配が、粘り強く残っている

朝夕の空の模様が春めいて来た事をまざまざと思わせる。北西の風が東に回るにつれて、単色に堅く凍りついていた雲が、蒸されるようにもやもやとくずれ出して、淡いながら暖かい色の晴れ雲に変わって行く。

白い化粧煉瓦を張った長い塀が、いかにも澄んだ冬の空気を映していた。

（イチョウの）落葉が陽を喪（うしな）った路の上を明るくしている。彼はそれらの落葉にほのかな愛着を覚えた。

桜花を催す雨が二三日しとしと続く

朝、冷たい霧雨が降っていた。晩あたりは雪になるかも知れない。

木々の枝を覆っていた氷が水晶細工の森のように光り輝く