(舌を噛む)煮物を口に入れた途端、舌が変なふうに 捩れて奥歯でしたたかに噛んでしまう。痛みが脳天に抜ける。《…略…》ひと息ついてから再び食べ物を口に入れると、さっき噛んだその同じところを、今度は犬歯でもう一度噛んでしまう。舌の肉に、歯の先端がぐさりと食い込むのがはっきりわかる。悲鳴をあげる。
沼田 まほかる「彼女がその名を知らない鳥たち (幻冬舎文庫)」に収録 ページ位置:21% 作品を確認(amazon)
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舌
食べる
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前後の文章を含んだ引用
......ちょうどええ味加減や、なんか、お袋の味っちゅうやつや、へへ」 下水のにおいだ! 埃のにおい、アスファルトのにおい、あの夜の路地のにおいだ! 上の空でつまみ上げた煮物を口に入れた途端、舌が変なふうに捩れて奥歯でしたたかに噛んでしまう。痛みが脳天に抜ける。箸を取り落とし、手で口を覆う。「なんや、舌噛んだんか、いけるか?」 なんとか耐えてうなずき、口のなかのものを飲み下す。あの夜と同じ血の味が広がる。 傷ついたあたりを庇いながら、ビールを流し込む。だが、ひと息ついてから再び食べ物を口に入れると、さっき噛んだその同じところを、今度は犬歯でもう一度噛んでしまう。舌の肉に、歯の先端がぐさりと食い込むのがはっきりわかる。悲鳴をあげる。「どないした! またか、また噛んだんか!」 指で舌を引っぱり出して洗面所の鏡に映すと、側面の紫がかった柔らかい粘膜に傷穴が開いている。しかし、それよりも十和子を......
単語の意味
脳天(のうてん)
犬歯(けんし)
脳天・・・頭のてっぺん。頭頂部。
犬歯・・・門歯(もんし)と臼歯(きゅうし)の間にある、上下各二本のとがった歯。食肉動物では発達して牙(きば)となる。尖頭歯(せんとうし)。糸切り歯(いときりば)。牙。犬のそれが良く発達しているのでいう。
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舌の表現・描写・類語(歯・舌のカテゴリ)の一覧 ランダム5
(鏡で)自分の舌を眺めるのは久しぶりだった。そこには苔のようなものが厚く生えていた。本物の苔と同じようにそれは淡い緑色を帯びていた。彼は明かりの下でその苔を詳しく点検した。気味の悪い代物だ。そしてそれは舌全面にしっかりと固着し、もうどうやっても落とせそうになかった。このままいけば俺はそのうち苔人間になってしまうかもしれない、と牛河は思った。舌から始まって身体中のあちこちの皮膚に緑色の苔が生えてくるのだ。沼地でこそこそ暮らす亀の甲羅みたいに。そんなことを想像しただけで気持ちが暗くなる。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 3 amazon
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食べるの表現・描写・類語(動作・仕草・クセのカテゴリ)の一覧 ランダム5
繊維が残らないくらいに、強く強く噛み砕いた。
朝井 リョウ / もういちど生まれる「もういちど生まれる (幻冬舎文庫)」に収録 amazon
大きい肉にとりついて、口を動かしている。いつもより紅の濃い幹子の唇は脂でぬめぬめと光り、そこだけ別の生きもののように、肉をくわえ、脂を口の奥へ送り込んでゆく。
向田邦子 / 三枚肉「思い出トランプ(新潮文庫)」に収録 amazon
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それは嵐のような拍手を惹 き起した。
小林多喜二 / 蟹工船
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