ビーバーみたいに前歯を出す

稚気を帯びた糸切歯の根元に細い金冠が嵌（はま）っている。

馬のように大きい白い歯

水晶のように固い美しい歯

目立たぬほど上反った歯は一枚おきに義歯を入れて、物を言うたび煌々と人の目を射る

小動物の歯のような細かい鋭い歯並び

馬のように大きい、白い歯が堅い菜を嚙みくだく。

舌が長すぎてよだれが垂れそうな口元

（舌にできた発疹）十和子を驚かせたのは、赤いグロテスクな発疹がいつの間にか増殖して舌の表面を覆っていることだ。びっしりと寄り集まった舌先を中心に、ずっと奥の付け根の方まで、裏側のグチャグチャしたひだの間まで、よく見ると粒々が飛び火している。これから病変がひろがっていきそうな部分は、 舌苔 が薄くなって地肌が透けている。これが自分の舌だとは信じられない。 　自分の舌が以前はどんな状態だったか思い出せない。でも、こんなに赤い、ひとつひとつがこんなに大きい粒々などなかった。こんなに不気味な、腐った魚の卵みたいな肉塊ではなかった。《…略…》病んだハラワタみたいなこの舌が、ある種の 烙印 のように思える。何か口では言えないほどいけないことをした女の烙印。