会えないことにはふだん気づかないけれど、神様が髪の毛をそっとなでたみたいな、今のようなときに気づくことができる。すばらしい踊りを見ているときはっと気づくことがある。

胸に天来の啓示のごとく考えが閃く

虚空を飛び散る速さで、瞼（まぶた）のなかを様々な文字が飛んてゆく。 　速くノートに書きとめておかなければ、この素速い文字は消えて忘れてしまうのだ。

朝の光が暗い寝室に射しこむように、考えが胸を打つ

意識の片隅を何かがよぎる

（アイデアを出す）「耳クソも、何にもない、綺麗だと思っていても、一生懸命耳をかき出すと、白くて大きいものがポロッと出てきたりするじゃないか。思い出なんてそんなもんで、やたらひっかけばひっかくほどどんどんとれていくもんさ」

これは何の前ぶれなんだろう。このところ確かに私も彼のことを思い出す瞬間が増えていた。しかも回想としてではなく、雨空に、黒く 濡れたアスファルトに、街角の光るウィンドウにその面影がふいにフラッシュバックするのだ。ずっと忘れていたのに。

ささやかな予感がした。頭の中を音のない弾丸のように素早くさっとその予感がよぎった。予感には小さな字で「車を何処かで停めたほうがいい」と書いてあったような気がした。

どこかに行っちゃうのかもしれない。 　何故だかわからないけれど、稲妻が落ちるように、愛子はそう思った。

酒を飲みながら、イマジネーションの到来を待ち焦がれる。適度のアルコールを摂取して柔らかくなった脳が、論理の枠を踏みはずした奇想を生むことはよくある。