船はもう一個の敏活な生き物だ。船べりからは百足虫（むかで）のように艪（ろ）の足を出し、艫（とも）からは鯨のように舵（かじ）の尾を出して

うねり に従う船の大きい動揺

帆を張った漁船が四五 艘そう、黒ずんだ 藍色 の海を力強く走っていた。

船が竿を弓のように張って流れを遡（さかのぼ）って行く

犇々（ひしひし）と上げくる秋の汐（しお）が、廂（ひさし）のない屋根舟を木の葉のように軽くあおる

濁った水を走る、小さい魚の眼にも、澄んだ真夏の空が光っている。

濁った水の底を幻影のように赤くするその魚

六尺ほどの凍った魚が三四本丸太のように立てかけてあった。

（鯉は）あたかも王者のごとく泳ぎまわっていたのである。

透明に近い躰（からだ）に糸くずほどの骨が透けて見える小さな魚

そよ風の妖精みたいに颯爽とマウンテンバイクを走らせる

模範船の艫から一字を引いて怪火（かいか）のように流れる炭火の火の子とをながめやる。

隼（はやぶさ）のような早い飛行機

マストや柱や欄干は、髮を毟（むし）られる女のような悲鳴をあげて身を撓（たわ）めた。

夜中のすいた道路を代々木から新宿へ、そして四谷、赤坂、青山、広尾、六本木、代官山、渋谷へと車を進めた。

（貨物船の）脇腹には病人のかさぶたのように貝殻がびっしりとこびりついている。

太棹（ふとざお）の三味線でも聴いているように、食用蛙が、ぼろんぼろんと《…略…》耳についていた。

艦隊（かんたい）のように魚以上の堂々とした隊列で遊弋し、

列を作った三匹の雄魚は順々に海戦の衝角突撃（しょうかくとつげき）のようにして、一匹の雌魚を、柳のひげ根の束（たば）の中へ追い込もうとしている。雌は避けられるだけは避けて、免（まぬが）れようとする。なぜであろうか。処女の恥辱のためであろうか。生物は本来、性の独立をいとおしむためか。それともかえって雄を誘うコケットリーか。ついに免れ切れなくなって、雌魚は柳のひげ根に美しい小粒（こつぶ）の真珠のような産卵を撒き散らして逃げて行く。雄魚等は勝利の腹を閃めかして一つ一つの産卵に電撃を与える。

河鹿は渓（たに）の石と見わけにくい色をしている