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私は眼の前の会席膳 の食品の鮮やかさに強て念頭を拭 った。 季節をさまで先走らない、そして実質的に食べられるものを親切に選んであった。特に女の眼を悦 ばせそうな冬菜 は、形のまま青く茹 で上げ、小鳥は肉を磨 り潰 して、枇杷 の花の形に練り慥えてあった。そして、皿の肴 には、霰 の降るときは水面に浮き跳ねて悦ぶという琵琶湖の杜父魚 を使って空揚げにしてあるなぞは、料理人になかなか油断のならない用意あるがことを懐 わせた。
岡本かの子 / 河明り ページ位置:21% 作品を確認(青空文庫)
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会席料理・懐石料理
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前後の文章を含んだ引用
......ございますよ。あなたさまには、いろいろお話し申したいことがあると云って、張切って居るんでございますから」 纏縛 という言葉が、ちらと私の頭を掠 めて過ぎた。しかし、私は眼の前の会席膳 の食品の鮮やかさに強て念頭を拭 った。 季節をさまで先走らない、そして実質的に食べられるものを親切に選んであった。特に女の眼を悦 ばせそうな冬菜 は、形のまま青く茹 で上げ、小鳥は肉を磨 り潰 して、枇杷 の花の形に練り慥えてあった。そして、皿の肴 には、霰 の降るときは水面に浮き跳ねて悦ぶという琵琶湖の杜父魚 を使って空揚げにしてあるなぞは、料理人になかなか油断のならない用意あるがことを懐 わせた。 私も娘も二人きりで遠慮なく食べた。私は二三町も行けば大都会のビジネス・センターの主要道路が通っているこの界隈 の中に、こうも幻想のような部屋のあるのを不思議とも......
単語の意味
肴(さかな)
会席料理・懐石料理(かいせきりょうり)
冬菜(ふゆな)
鰍・杜父魚(かじか)
肴・・・お酒と一緒に楽しむもの。食べ物に対して言うことが多いが、盛り上がる話題や芸事にも言う。アテ。つまみ。
会席料理・懐石料理・・・宴会、茶会の席で出される料理。宴の席では会席料理、お茶の席では懐石料理と区別する場合が多い。
冬菜・・・冬に出回る菜の総称。
鰍・杜父魚・・・カジカ科の淡水魚。形はハゼに似ていて、背中は暗灰色で腹は白い。清流の砂の間にすむ。食用。「鰍」は「いなだ」と読んで別の魚を指す場合もある。
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とろろ飯の前に、いろいろと出る。 会席のまねごとであるが、〔待月楼〕のような料亭になると、こうしなくては算盤が合わぬことになる。
池波 正太郎「食卓の情景 (新潮文庫)」に収録 amazon
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