気持ちの悪い幻像を払いのけるように、一つ一つその看板を見迎え見送っていた。所々（ところどころ）に火が燃えるようにその看板は目に映って木部の姿はまたおぼろになって行った。

考えをふるい落とそうとするかのごとく激しく頭を左右に振る

記憶にかかった靄を追い払うように頭を振る

心の中をひらめき過ぎる断片的な影を葉子は枯れ葉のように払いのけ

自分でいることすらむつかしい、この現代のありよう。くもの巣みたいに張りめぐらされ、歩くとふっ、ふっとまとわりついてくる何かの影。はらいのけてもぺたりとした感触を残す。無視しきれないくらいの割合で空気にまぎれ込み、バイタリティーとか、生命の輝きとは最もかけはなれた弱っちい虫けらのようなエネルギー。見えないふりができても、それがあるかぎり、すっきりと視界が晴れることはない。

時間がせまればせまるほど気があせり、

目をつり上げてキリキリ舞いする

田沢医師は腕組みすると、眉間に皺を寄せて考え込んでいたが、ふいに腕組みを解くと、 「ちょっとお待ちください」 　と言い、立ち上がって横の調剤室へ入った。

頭の中では、困惑と疑問が竜巻のようになって、ぐるぐる回っているに

煮詰まる