粉雪を吹きつける風が、膚を截（き）るよう

時々傘がひっくり帰ってしまうほどの強い風が吹く

看板はがたがた音を立てて揺れ、若葉に 彩られた枝も音を立ててずらりとなびいていた。歩道をゆく人々はみな、ごうごう吹き荒れる風に顔をしかめたり、髪を押さえたりしていて、やたら落ち着かなかった。青い空だけがじっと動かずにそういう世間を見ていた。体重が軽い私も、風に押されて飛んでゆきそうなので、必死だった。

誰か大声で叫んで、右舷のデッキを走って行った。その声が強い風にすぐちぎり取られて、意味のない叫び声のように聞こえた。

雲のかけらが目つきの悪い密使のように大急ぎで空をかけぬけ

旗がハタハタと風にはためく音が聞えた。

渦巻くようにしてガラスを打ちつける風の音

窓を開けると、風が滑り込むように入ってきた。

吹き始めた風で、広間の窓が苦しげに揺れた。

二月の風が破れた窓をならしていた。窓硝子にはりつけた爆風よけの紙がその風に少し剝がれて、カサ、カサと音をたてている。