少年が少女を橇 に誘う。二人は汗を出して長い傾斜を牽 いてあがった。そこから滑り降りるのだ。――橇はだんだん速力を増す。首巻がハタハタはためきはじめる。風がビュビュと耳を過ぎる。 「ぼくはおまえを愛している」 ふと少女はそんな囁 きを風のなかに聞いた。胸がドキドキした。しかし速力が緩み、風の唸 りが消え、なだらかに橇が止まる頃には、それが空耳だったという疑惑が立罩 める。
梶井基次郎 / 雪後 ページ位置:32% 作品を確認(青空文庫)
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空耳・幻聴
そり(乗り物)
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前後の文章を含んだ引用
...... バサバサと凍った雪を踏んで、月光のなかを、彼は美しい想念に涵 りながら歩いた。その晩行一は細君にロシアの短篇作家の書いた話をしてやった。―― 「乗せてあげよう」 少年が少女を橇 に誘う。二人は汗を出して長い傾斜を牽 いてあがった。そこから滑り降りるのだ。――橇はだんだん速力を増す。首巻がハタハタはためきはじめる。風がビュビュと耳を過ぎる。 「ぼくはおまえを愛している」 ふと少女はそんな囁 きを風のなかに聞いた。胸がドキドキした。しかし速力が緩み、風の唸 りが消え、なだらかに橇が止まる頃には、それが空耳だったという疑惑が立罩 める。 「どうだったい」 晴ばれとした少年の顔からは、彼女はいずれとも決めかねた。 「もう一度」 少女は確かめたいばかりに、また汗を流して傾斜をのぼる。――首巻がはためき......
単語の意味
空耳(そらみみ)
胸(むね)
鰰・燭魚・鱩(はたはた)
空耳・・・1.実際には声や物音は聞こえないのに、聞こえたような気がすること。幻聴。
2.聞いても聞かないふりをすること。
2.聞いても聞かないふりをすること。
鰰・燭魚・鱩・・・ハタハタ科の海水魚。全長15cmほど。口は大きく、体に鱗(うろこ)はない。北日本のやや深海に生息し、11~12月ころ産卵のため沿岸に群遊、その時が漁期でもある。秋田などの東北地方の日本海沿岸で昔たくさん獲れた。食用で、味は淡白。漁期の冬は、雪が降り出す前に雷が鳴ることも多く「神」や「雷」の字を当てる。別名で「雷魚(かみなりうお)」ともいう。
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田畑の上を、電信柱や人や森が、スイ、スイ、来ては飛び去る。
宮本百合子 / 伸子
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はるか前方の書記席でとり落とした鉛筆の音が傍聴席の隅までとどくほど、寂としている
徳永 直 / 太陽のない街 amazon
理屈っぽくて硬質な、ドラマティックで情念的なベートーヴェン
村上春樹 / 遠い太鼓 amazon
重い靴の音
夏目漱石 / 吾輩は猫である
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