（喫茶店内）季節よりやや早目の花が、同じく季節よりやや早目の流行服の男女と色彩を調え合って、ここもすでに春だった。

柔かい風が木々の幼い緑をゆする

岸に近い海面が春の海藻の丹の色に染まる

春にしては風のある寒い日である。けれども長堤も対岸の丘もかなり青み亘（わた）り、その青みの中に柔かいうす紅や萌黄（もえぎ）の芽出しの色が一面に漉（す）き込まれている。漉き込み剰（あま）って強い塊の花の色に吹き出しているところもある。川幅の大半を埋めている小石の大河原にも若草の叢（くさむら）の色が和みかけている。

生命が地表に顔を出し、若い実を結び、人々がほっと一息ついた頃

三分咲きの桜が幔幕をめぐらせたよう

小学生の遊戯のようにはしゃいで踊る

朝夕の空の模様が春めいて来た事をまざまざと思わせる。北西の風が東に回るにつれて、単色に堅く凍りついていた雲が、蒸されるようにもやもやとくずれ出して、淡いながら暖かい色の晴れ雲に変わって行く。

晴れた窓からは、新宿の高層ビルの景色が見える。街中に、春の新しい風が吹き抜けていくのが、目に見えるようだった。

みずみずしい野菜が出そろう季節