自分でいることすらむつかしい、この現代のありよう。くもの巣みたいに張りめぐらされ、歩くとふっ、ふっとまとわりついてくる何かの影。はらいのけてもぺたりとした感触を残す。無視しきれないくらいの割合で空気にまぎれ込み、バイタリティーとか、生命の輝きとは最もかけはなれた弱っちい虫けらのようなエネルギー。見えないふりができても、それがあるかぎり、すっきりと視界が晴れることはない。

心の中をひらめき過ぎる断片的な影を葉子は枯れ葉のように払いのけ

悠木は思考を投げ出して風呂を出た。

悪夢でも払うように首を振る

うるさそうに頭の中にある手のようなもので無性（むしょう）に払いのけようと試みた

「しばらく適当に走らせて。ちょっと考えたいことがあるの」

落ち着いてゆっくり考えよう、そう思うそばから思考が風に吹き散らされてしまう。

驚きで、意識があの世まで飛んでいきそうになった。

疑問符が、金銭登録機のドル符号のように、ひっきりなしに浮かんでは消える

（武士道とは）武士階級がその職業、および日常生活において守るべき道を意味する。一言でいえば「武士の 掟」、すなわち、「 高き身分の者に伴う義務」のことである。