一冊の古びたペーパーバック「N・P」と、バインダーと、ロレックスのずっしり重い時計。 これらが、庄司の形見だった。 彼は4年も前に睡眠薬自殺をしたのだ。そしてこれらを手にしたときから、いつも私の心のどこかにこの品々があった。 たとえば昼間、私が働いている大学の研究室で。ふと耳をすますと遠くでサイレンの音が町を駆けてゆくのが聞こえたりするとき、うちの近くかな、と思う、そんなとき必ずこれらが心に浮かぶ。それ位、重い品々だ。
吉本 ばなな「N・P (角川文庫)」に収録 ページ位置:4% 作品を確認(amazon)
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遺品・形見
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前後の文章を含んだ引用
......静けさはくっきりと輪郭を持って押し寄せてきた。一日が始まる前の青。 私は気になったのでベッドをおり、机の下の開き戸を開け、そこにあるめったに開けない箱を開けた。一冊の古びたペーパーバック「N・P」と、バインダーと、ロレックスのずっしり重い時計。 これらが、庄司の形見だった。 彼は4年も前に睡眠薬自殺をしたのだ。そしてこれらを手にしたときから、いつも私の心のどこかにこの品々があった。 たとえば昼間、私が働いている大学の研究室で。ふと耳をすますと遠くでサイレンの音が町を駆けてゆくのが聞こえたりするとき、うちの近くかな、と思う、そんなとき必ずこれらが心に浮かぶ。それ位、重い品々だ。 確かめるように手に取ってから、元のところにしっかりしまって、私は再びベッドに入った。そしてまた寝てしまった。★ 私は19になるまで、母と姉と3人で暮らしていた......
単語の意味
形見(かたみ)
形見・・・1.死んだ人や分かれた人を思い出すきっかけになるもの。去った人が残した品。
2.過去を思い出させるもの。思い出の品。記念品。
2.過去を思い出させるもの。思い出の品。記念品。
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遺品・形見の表現・描写・類語(生と死のカテゴリ)の一覧 ランダム5
(遺品のかんざしを)見つめていると、ありし日の女の姿が、ぼっと、眸にひろがって来る気さえする。
吉川英治 / 無宿人国記
このまま、なお持っていると、病気にでも取ッつかれそうな気がしていた簪
吉川英治 / 無宿人国記
兄の紀念 とかいう二十年来着古 るした結城紬 の綿入
夏目漱石 / 吾輩は猫である
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(訃報の)葉書を読み返し、念のために表も確認して、またしばらく文中の「他界」という文字を見つめていた。その言葉には、自分が知っている以外の、何か他の意味があっただろうかという風に。
平野 啓一郎「マチネの終わりに (文春文庫)」に収録 amazon
彼が死んだ夜から私の心は別空間に移行してしまい、どうしても戻ってこれない。昔のような視点で、どうしても世界を見ることができない。頭が不安定に浮き沈みして、落ち着かずにぼんやりいつも重苦しい。
吉本 ばなな / ムーンライト・シャドウ「キッチン (角川文庫)」に収録 amazon
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