さわやかな不倫なんてないのはわかっていたが

うせ人のものだと思うとその小さな手も、細い首もやたら白く見えたものだ。

妻の目を盗んで、こっそり会う

（兄妹でデート）ご夫婦ですか？　と聞かれる度に、公園の老夫婦を見かける度に、気まずくなっちゃうのよ。逃亡者みたいに。

会えば瞬く間に夜が過ぎる。時間と欲望とに駆り立てられるように抱き合い、抱き合えばそのたびに何かが完結しないもどかしさが十和子のなかに鬱積していく。その鬱積が水島への思慕をさらに烈しいものにする。

その前へ出ただけで脱力（だつりょく）させられてしまうような女

次に野呂と会う時は、どんな服を着て行こうか、と考え、小さなクローゼットを開けて眺めている時の幸福感は、ほぼ絶頂に近いものだった。

結婚ということの先の先まで目の前に見えるような気がして、心がはずんでこない

思わず顔をあげると、すばやい指がコーヒーカップを持つようなしかたで十和子の顎を捉える。水島が背後から覆いかぶさって唇を吸う。《…略…》すぐに湯のように味のない唾液が水島から十和子に流れ下ってくる。強く押さえつけてくる指が頬の肉ごと奥歯の間に食い込んで、口を閉じることができない。

惚れていた時分は神々しく思えた杉子の 中高 な顔まで卑しく見えた。