双子のマンションと言われるのも分からないでもなかった。住宅街に細長いマンションが二棟並んで立っているのだ。無用のシンボルなのか給水用のタンクなのか、さもなくば住人専用のプラネタリウムでもあるのか、屋上には球体のオブジェが載っていて、建物全体が巨人の姿にも見える。

雲一つなく暮れて行く空を刺していた黒い鉄骨のエッフェル塔は余りににべも無い。

エッフェル塔は長い長い影を、セーヌ河岸の樹帯の葉の上や、密集した建物の上へはっきり曳（ひ）きながら、広く河波に臨んで繊細で逞（たくま）しい脚を驚くほど張り拡（ひろ）げていた。

高層ホテルが反り返っている

上を見た。夜を突き刺すかのように、見張り台がそびえている。

（古びた雑居ビル）カードショップはどこも、高利貸しや探偵事務所や占いの店が入居している、古びた雑居ビルの一室にあった。エレベーターに乗っているだけで憂うつになるようなビルばかりだった

角を曲がるとつきあたりがＭ病院だった。姉が言った通り、そこだけ時間が止まっていた。ずっと長い間記憶の中に閉じ込められていたＭ病院が、そのまま目の前にあった。

高層のビル群は、重く低い灰色の雲を支えて視界の辺縁に寒々と立ちすくんでいる。

（物置部屋）裏庭の片隅に小さな木造の小屋が見える。引き戸や窓の様子から見て、人の住む空間ではなさそうだ。

（家の中が酸っぱい）驚いたのは匂いである。 　ひどく酸っぱい。 　九鬼本は、はじめ、五目ずしでも大量に作ったのかと思った。《…略…》酸っぱい、といったところで、ツーンと鼻にくるような酸っぱさではない。 　夏場は、たきたてのご飯に酢をまぜ、 団扇 であおいでいるときのような、蒸れたような酸っぱさだった。 　ひんやりした時候になると、 海苔巻 や 稲荷 ずしの匂いになった。 　うち全体が匂うのである。 　いや、うちも人も、酸っぱい匂いがした。