ぎょっとした顔

もっけな顔

不意打ちに合ったような驚愕の色が見える

びっくりして声を上げそうになる

訳がわからない顔をして

葉子はぎょっとして、血の代わりに心臓の中に氷の水を瀉（そそ）ぎこまれたように思った。

彼女は男が、娘や私たちを認めて、歩を運び出した刹那（せつな）に、「あたし――」といって、かなりあらわに体を慄（ふる）わして、私の肩に掴（つかま）った。その掴り方は、彼女の指先が私の肩の肉に食い込んで痛いくらいだった。ふだん長い睫毛（まつげ）をかむって煙っている彼女の眼は、切れ目一ぱいに裂け拡（ひろ）がり、白眼の中央に取り残された瞳は、異常なショックで凝ったまま、ぴりぴり顫動（せんどう）していた。口も眼のように竪（たて）に開いていた。小鼻も喘（あえ）いで膨らみ、濃い眉（まゆ）と眉の間の肉を冠（かぶ）る皮膚が、しきりに隆まり歪（ゆが）められ、彼女に堪え切れないほどの感情が、心内に相衝撃するもののように見えた。二三度、陣痛のようにうねりの慄えが強く、彼女の指先から私の肩の肉に噛（か）み込まれ、同時に、彼女から放射する電気のようなものを私は感じた。私は彼女が気が狂ったのではないかと、怖（おそ）れながら肩の痛さに堪えて、彼女の気色を覗（うかが）った。

（恐怖のドキドキ）心臓が胸の中で鋭い信号音をたたき出している。

重心を失ったかの如く、雲霧は、よろよろと腰をついた。

衝撃が心を襲う

全身の血が冷えわたって、動悸が高まる

氷を胸に当たられたようにひやりとする

血も凍るような不気味さ

背中に冷たい風が通り抜けるような感じ

背筋に氷柱を当てられた感覚

大黒天のように、幸福な顔つきをした老人

うっとうしい雲が晴れてゆくように表情が明るくなる

浮き浮きして、顔の皮膚までがしっとり輝き出すよう

顔の奥に明るい灯火が点ったようになる

病気の直った人のような輝きの表情

ぎくりとする

あきれ返って何も言えない

ポカーンと思考が止まり

衝撃が心を襲う

砥石のような色の顔

その不動な表情は、強いていえば「考える猫」に似ていた。

冗談じゃないという顔

顔は何か輝いて幸福そうだ

人を人とも思わぬ面魂

怒りで奥歯がボロボロ