秋はいつも嫌な季節だった。夏のあいだに休暇で街に帰っていた数少ない彼の友人たちは、九月の到来を待たずに短かい別れの言葉を残し、遠く離れた彼ら自身の場所に戻っていった。そして夏の光があたかも目に見えぬ分水嶺を越えるかのようにその色あいを微かに変える頃、鼠のまわりを僅かな期間ではあるがオーラの如く包んでいたある輝きも消えた。そして暖かい夢の名残りも、まるで細い川筋のように秋の砂地の底に跡かたもなく吸い込まれていった。

夏の名残が引いてゆく気配を、汗が兆すようで意外と乾燥したままの額の 縁 に感じた。

文化の燎原（りょうげん）に立ち昇（のぼ）る晩夏の陽炎（かげろう）

旱（ひでり）の多かった夏にも雨が一度来、二度来、それがあがるたびごとにやや秋めいたものが肌に触れるように気候もなって来た。

その年の短かい夏が九月初めの不確かな大気の揺らめきに吸い込まれるように消えた後も、鼠（人名）の心は僅かばかりの夏の名残りの中に留まっていた。

正覚坊（しょうがくぼう）の卵みたいな、三寸玉から五寸玉ぐらいまでの花火の外殻（から）

強い陽射しに眼がやられたのか視界は 霞み、

みずみずしい花の色がそのまま黒土にしたたるように、紫陽花の花に雨が降りしきる

夏の光はいきなり目の前で白い爆発を起こしたみたいに明るい

麦秋（むぎあき）によくある薄曇りの日