（以前住んでいた町を歩くと）一軒二軒、昔と変わらない家が、新しい家に挾まれて残っていた。

大きな森の木はどんどん切り倒され、代わりに細っこい人工の街路樹が清潔な道の両側に植えられていく。まだ新しい緑道は真っ白で、指で触れるとコンクリートの白い粉がつく。

（日に日に大きくなる開発中のニュータウンに暮らす少女。成長期による膝の痛みをかかえる。できたばかりの白いレンガが敷き詰められた道と通って）「私たち、骨の中で暮らしてるみたい」 　肘と膝が、また痛んだ。私たちの手足の中にあるような、伸びる骨。まるでその骨の中に紛れ込んだみたいだ。白い世界は少しずつ広がって、完成へと近づいて行く。

京都も、年毎に東京と大阪へ近づきつつある。国籍不明の風俗と建物が山や川を押し退け、古い都の名残りをとどめる唯一の町を侵蝕しはじめてきた。

街を見回す。白、灰色、黄緑色、黄土色、と私は学校で使う絵の具に書かれた色の名前を思い出しながら呟く。この街のほとんどは、この四つの色で塗り潰されている。 　この街のイメージカラーは白なんだよ、と、引っ越してきたばかりのころ、父が教えてくれた。清潔で、ニュータウンという新品の街のイメージにぴったりだからだろうか。確かに、駅も、駅前の広場も、学校も、全部真っ白だった。 　街の奥にある森の深い緑や凄みのある黒ずんだ土などは、どんどん街に塗り潰され、淡い四色に飲み込まれていく。

一帯の山脈が、日に背いてゐるせゐか、かがやく可き残雪の光もなく、紫がかつた暗い色を、長々となすつてゐる

高架下を、 轟音 を反響させながらダンプカーが走り去ってゆく。

丘の群れが、薄化粧した女のように、白く霞んで静まり返る

遠山は薄く昧（くら）く《…略…》影のように絵絹から消えて行きそうである。

田圃（たんぼ）の真ん中に、まるで蜃気楼のように出現したマンモス団地