四囲は水族館の水槽の底のように暗く沈んでいった

高い天井の真ん中に小さな明かり取りの窓のようなものが幾つか見えた。しかし月はまだ高く上がっていなかったので、明かりと呼べそうなものはそこから入ってこなかった。仄かな街灯の明かりが屈折に屈折を重ねた末にほんの少しだけその天窓から忍びこんでいたが、殆ど何の助けにもならなかった。《…略…》やがて何かの加減で、部屋にさしこむ光がほんの少しだけ明るさを増した。月が上がってきたのだろうか？あるいは街の光が明るく灯り始めたのだろうか？

仄ほの 白じろい光が対岸から 拡がっていたが、それはほとんど川面で 弾け散って、舟の中ではときおり小さな光のかけらが 瞬くだけであった。

ホームの灯が消された。雪明りが待合室をぼんやりと染めた。

家中がもう寝静まっていて、台所は暗く、流しのところにある小さな蛍光灯だけがついていた。その下の母は、まるでポートレイトのように白黒に見えた。

魔界の暗さ

光沢を放つ

手を振りかえす竜一郎の青い軍手が、闇によく映えてまるで蛍のようだった。

白い砂に鮮やかな影を落とす

色硝子（いろガラス）の光に顔中紫に染まりながら

この建物の中では時間は奇妙な流れ方をしていた。居間に置かれた旧式の柱時計と同じだ。人々が気紛れにやってきては分銅を巻きあげる。分銅が上っている限り、時はコツコツと音を立てて流れる。しかし人々が去り分銅が下りてしまうと時はそこで止まる。そして静止した時の塊りが床の上に色あせた生活の層を積み上げる。

ガラスのドアを開けて中に入ると、大音量の音楽が流れていた。メロディがあるのかないのか分からないような曲で、若い男がかったるそうに歌っている。思わず耳をふさぎたくなる、まったく相容れない世界だった。

長く使っていない部屋の空気が、雪の冷たさを閉じ込めておいたように背筋をひんやりさせる

すがすがしい涼風が木の間から来て窓の白いカーテンをそっとなでて通るさわやかな天気

締め切った部屋で風の音は小さくなる