チリリンという目覚ましのか細い音

時計が地虫の鳴くような耳障りな音を立てる

巨大な古時計時を刻むうつろな音

時計はいかにも面白くなさそうに二時三十分を指している

（掛け時計が）ボタンで留めたようにペッタリと掛っている。

現像したばかりのまだ濡れている写真

（天眼鏡でのぞくと、）面白いのは、綿ごみである。 　羽織っていた女房の茶羽織の 袂 が、半分ひっくり返っていたのを直したときにつまみ上げ、食卓の上にのせて、 仔細 に眺めた。 　袂の丸みそっくりの、薄くやわらかいフェルトに見えるが、天眼鏡でのぞくと、さまざまな色の繊維の寄り集りである。 　どこからどうして入ったのか、何本かの毛髪らしいものが、一粒の仁丹と、一本の赤い絹糸をからめて半月型を形づくっている。 　持ち上げるとこわれそうなねずみ色のそれは、間違って咲いたなにかの花のように見える。 　楠は「ウドンゲ」の花というのは、こういうのではないかと思った。 　 印度 あたりの想像上の花で、たしか三千年に一度咲くという。吉兆とも、凶兆ともいわれている。 　ねずみ色の、雲のような、鳥の巣のようなものは花弁である。銀色の小粒と赤い絹糸は、 雄蕊 と 雌蕊 に違いない。

その場所は説明がなければディスコティックというよりは巧妙につくられた温室か水族館と言っても通用しそうだった。何もかもがガラスで作られているせいだ。床と天井をのぞけば、テーブルも壁も装飾品もぜんぶがガラス製だった。そして至るところに巨大な観葉植物が配されている。 　ガラスの仕切りで区切られたブロックのあるものの中では人々はカクテル・グラスを傾け、あるものの中では人々は踊っていた。それは僕に精密な透明の人体模型のようなものを連想させた。ひとつひとつの部分がそれぞれの原則にしたがってきちんと機能している。《…略…》店内にはガラスの壁がはりめぐらされ、それは透明な迷路をさえ思わせる。

百円ライターでオレンジ色の炎をボッと点す。わずかの煙も漏らすまいと頬をすぼめて吸うと、煙草が痛そうにキュウと鳴く。

北欧風の小さな白木のベッドだ。二人が乗ると、公園のボートのような軋んだ音を立てる。