朝の風が動き始め、明るさが訪れる

夜明けがやってきて、ニワトリが鳴き、東の空が明るくなる。

（朝の）霧に霞んでいる道路を走った。家々は戸と窓を閉ざして動くものは何もなく、僕は巨大な生物に呑まれて、腸の中をぐるぐる回る童話の主人公なのだと、自分のことを思った。

東の空が明るくなり始めていた。温かい一日になりそうだ。

空は黄色く濁（にご）って、気圧は昨夜よりまだ重かった。

重い気が籠った闇夜（やみよ）である。

ようやく太陽が昇りはじめた。晴れた一日になる、そういう気配があった。

星が降ってくるような、圧巻の夜空

冷気を含んで重くなったワンピース

（夜更けの人通りのない道、腰に下げた鈴）生まれてからまだ一度も踏まなかった道。そして同時に、実に親しい思いを起こさせる道。――それはもう彼が限られた回数通り過ぎたことのあるいつもの道ではなかった。いつの頃から歩いているのか、喬（たかし）は自分がとことわの過ぎてゆく者であるのを今は感じた。 　そんな時朝鮮の鈴は、喬の心を顫（ふる）わせて鳴った。ある時は、喬の現身（うつせみ）は道の上に失われ鈴の音だけが町を過るかと思われた。