鼻が詰って口で息をする

鼻は体に比べて大きく、息をするたびに鼻腔が翼のように左右に広がった。

長い長いふるえた呼吸（いき）を腹の底から吐き出し

投げ出すように強く息を吐く

マサルの全身は酸素を渇望し、習慣づいた鍛錬によりほとんど無意識下に置かれつつあるものの、息を吐くときだけ、彼の頭脳は横隔膜に指令を出した。二度短く息を吐き、吸気に関しては横隔膜の自然な動きに任せる。この、吸気の際、横隔膜をリラックスさせるだけで自動的に肺が新鮮な空気で満たされる、という生理科学の神秘を実感すると呼気まで自然の動きに任せようとしてしまいがちになるが、大抵ろくなことにはならなかった。明るい橋の上で呼気のコントロールを止めてみると、十秒も経たないうちに酸素の補給系統は乱れ、マサルは危うく一九一センチメートルの巨体をのたうちまわらせそうになった。なんでもかんでも、自然の法則に委ねればよいという考えは、間違いだった。

数日の間歩き続けていたようにひどい疲労に喘ぐ

「ふーむ」と、太い息をしたのち、感慨深く言った。

その足跡を、彼は、追った。呼吸（いき）が、はッはッと、口の外で動悸を打つ。

死にかけの金魚のように喘ぐ

安堵でため息と一緒に瞳が閉じる