部屋に差し込んだ冬の弱い光は靄のよう

傾いた冬の日が窓のそとのまのあたりを幻燈のように写し出している、

春の近さを思わせるほのかな陽のぬくみ

残っていた日向（ひなた）のような弱陽が物象を照らしていた。

四時ちかく、冬の陽が廊下を退きだした。

温もりのある日差しが、枯れかけた庭の芝生をねぎらうように照らしている。

空も地面も区別のないは灰白の中に地吹雪の舞う冬

（戦前の東京）冬至がすぎると、夜毎に冴えわたってきて、町には暦売りが出て来るし、町の物音がちがってくる。 　いまの東京の町の音は、車輛と工事の騒音のみになってしまい、これは春も夏も、師走だとて変ることがない。人の暮しにも季節がなくなってしまった。 　町をながすさまざまな物売りの声や、道行く人びとの声までも、大晦日へ向ってあわただしく、 「押しつまってくる……」 　のであった。

暖冬とはいえ、夜の外気はきりりと肌をさすようにはりつめているものだ

春が間近で、高い山脈は寒い色をしていたが、近くの低地の林に薄い緑が乗った。風はまだ冷たかった。