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人の印象の比喩を使った文章の一覧(293件)
僕は目を閉じて、自分が死んでいくところを想像してみる。すべての肉体機能が停止し、最後の息がすうっと肺から出ていく。最後の息というのは、思っているよりもずっと硬い。まるで軟式のテニスボールを喉から吐いているみたいな感じがする。
村上春樹 / 遠い太鼓 amazon
モヨ子の身体は、風の中の木の葉のように慄(ふる)えが止まらず、時造の支えがなければ、一刻も立っていられそうに見えなかった。
石坂洋次郎 / 女同士 : 他七篇(草を刈る娘) amazon
夕闇の中に診察着をきた男が夕顔のように白く近よってくる
遠藤周作 / 海と毒薬 amazon
男は光沢のあるスーツを着ていた。日光が男の背中に反射して、まるで昆虫のように七色に輝いていた。
せきしろ / 去年ルノアールで 完全版 amazon
彼の頭上にはそういう力が備わっていることを示すオーラが天使の輪のようにぽっかりと浮かんでいて、誰もが一目見ただけで「この男は特別な存在なんだ」と思っておそれいってしまうわけである。
村上春樹 / ノルウェイの森 amazon
どれもこれも崩れかかった人ばかりで、人間というよりは呼吸のある泥人形であった
北条 民雄 / いのちの初夜 amazon
彼の寝ている姿は深手を負った小動物を思わせた。横向きにぐったりと寝そべり、点滴の針のささった左腕をだらんとのばしたまま身動きひとつしなかった。やせた小柄な男だったが、これからもっとやせてもっと小さくなりそうだという印象を見るものに与えていた。
村上 春樹 / ノルウェイの森 下 amazon
この男はもうすぐ死ぬのだということが理解できた。彼の体には生命力というものが殆ど見うけられなかった。そこにあるものはひとつの生命の弱々しい微かな痕跡だった。それは家具やら建具やらを全部運び出されて解体されるのを待っているだけの古びた家屋のようなものだった。
村上 春樹 / ノルウェイの森 下 amazon
うす汚いビリヤード場の(彼女のいる)そこの場所だけが何かしら立派な社交場の一角であるように見えた
村上 春樹 / ノルウェイの森 下 amazon
強い茎の花のようにぴんと上がっていた頭がだんだん垂れてくる
円地 文子 / 渦 amazon
雑踏が、古い色あせた壁の無数の亀裂に浸み込む雨水のように、地面にしがみついた低い屋根の盛り場に浸み込んで行く
柴田 翔 / 燕のいる風景 amazon
アメーバのように増殖を続ける人間の塊が一斉に動き出す
荻野 アンナ / 背負い水 amazon
子どもたちが、アリが餌を運ぶようにぞろぞろ坂をのぼってくる
長崎 源之助 / ゲンのいた谷 amazon
蟻が小さな穴に群がり入るように、押し倒し押し返し入り口になだれ込む
山崎 豊子 / 暖簾 amazon
穴ごもりの樹を逸した蟻のような人々の群れ
阿久 悠 / 瀬戸内少年野球団 (〔正〕) (文春文庫 amazon
せきとめられた人の流れが、港内の泡のようにゆっくりと動く
武田 泰淳 / 風媒花 amazon
雨に濡れて尾を垂れた野良犬よりも哀れ
藤本 義一 / 標的野郎(ターゲット・ガイ) amazon
若い女の柔肌のような、汚れを知らぬ生き生きとした生気
柴田 錬三郎 / 南国群狼伝 amazon
病人が暗がりの中で、灰色の石のように横たわっている
遠藤 周作 / 沈黙 amazon
ぼさっとして大きく寄りつきがたい巖石(がんせき)のような男
新田 次郎 / 芙蓉の人 amazon
殺されてもいいような、鰯の頭のような使節
坂口 安吾 / 狂人遺言 amazon
どこの土にも根が付いていない浮き草のような女
石川 達三 / 独りきりの世界 amazon
白い紙片が風に吹かれて路上に転がって行くような後ろ姿
黒岩 重吾 / 背徳のメス amazon
自分の家から出かけるときのような気安げな後ろ姿
石川 達三 / 花のない季節 amazon
肩を落とし背を丸めた後ろ姿が、まるで見えない荷物を背負っているように見える
落合 恵子 / 夏草の女たち amazon
自分の影に漂白剤をかけて、ただでさえ薄い印象をさらに薄めようと努力しているような男
荻野 アンナ / 背負い水 amazon
黒い潤いのある瞳が嵐のように渦を巻く
高橋 三千綱 / 涙 amazon
青い顔で、罪人のようにうなだれる
源氏 鶏太 / 家庭の事情 (1963年) amazon
良家のお嬢さんがそのまま結婚して弁護士の妻におさまった感じのする世間知らずの女
小池 真理子 / やさしい夜の殺意 amazon
彼女の登場で部屋の中の照度が一気に上がったような気がする
七尾 与史 / 死亡フラグが立ちました! (宝島社文庫) amazon
せまい小舎がはちきれるほど大勢の人で埋まる
水上 勉 / 越前竹人形 (1980年) amazon
わいてくるもののように大勢の人間がうごめく
石坂 洋次郎 / 丘は花ざかり amazon
巣箱に群がる蜂のように大勢の人間が行き交う
ロナルド・マンソン / ファン・メイル (上) amazon
骨がみりみり音を立てるほどの勇ましさ
小島 信夫 / アメリカン・スクール amazon
ゆらめく影のようにあやうい感じのある女
日野 啓三 / 夢の島 amazon
少女がうなだれて、鶏のようにびくびくする
大江 健三郎 / 芽むしり仔撃ち amazon
修学旅行の少女たちが白い花びらのように群れる
原田 康子 / 挽歌 amazon
髑髏(どくろ)が暗いほら穴のような目でにらみつける
西木 正明 / 『幸福』行最終列車 amazon
九月に入ったばかりだというのに、その男はきちんとビジネススーツを着こみ、ネクタイを喉元で締めていた。髪をぴったり撫でつけ、綺麗に髯も剃っている。地方銀行の支店長という印象だが
三上 延 / ビブリア古書堂の事件手帖 ~栞子さんと奇妙な客人たち~ amazon
水のように静かでさびしい翳(かげ)が離れない娘
海音寺 潮五郎 / 武道伝来記 amazon
ひっそりとした群衆が三々五々、影絵のように闇の中に散り始める
福永 武彦 / 草の花 amazon
蚊帳の中にいる人物のようにぼうっと霞んだ存在感しか与えない
原田 宗典 / 十九、二十(はたち) amazon
白刃を構えたような凄み
高樹 のぶ子 / 光抱く友よ amazon
白い紙片が風に吹かれて路上を転がって行くような後ろ姿
黒岩 重吾 / 背徳のメス amazon
体が御輿(みこし)のように揉まれる
獅子 文六 / てんやわんや amazon
近づくと感電しそうなパワーを感じる
岡田 なおこ / 薫ing(イング) amazon
蛇とキツネをミックスしたように陰険なところがある母娘
志茂田 景樹 / 月光の大死角 amazon
水に帰った金魚のように、いよいよ華やぎ若やぐ
有吉 佐和子 / 三婆 amazon
萎れた花のように首を垂れる
大仏 次郎 / 冬の紳士 amazon
ほんの毛筋ほど離れた気配
永井 路子 / うたかたの amazon
何か大事なものでもなくしちゃったみたいにげっそりとした後ろ姿
森 瑶子 / 風物語 (角川文庫 amazon
フライパンの上でハネるゴマ粒のように元気な子
干刈 あがた / ゆっくり東京女子マラソン amazon
小娘のような元気が肩にも腰にも躍る
円地 文子 / 朱(あけ)を奪うもの amazon
男が、蝙蝠のように袖を広げて格子に摑(つか)まる
川端 康成 / 掌の小説 amazon
皆から忘れられた骨董品の壺のようにそこに坐っている
小川 洋子 / 余白の愛 amazon
満員の浴場のような混雑
田辺 聖子 / 返事はあした amazon
見物人が、石榴(ざくろ)の実を割ったようにいっぱいに詰まる
内田 百けん / 冥途 amazon
闇の中に氷のような殺気が走る
光瀬 龍 / 百億の昼と千億の夜 amazon
死骸が、柔らかい作りかけの粘土細工のように生々しい
長野 まゆみ / 銀木犀 amazon
きたならしい漆喰の人形のような女のむくろ
長与 善郎 / 青銅の基督 amazon
黒焦げの死骸はどこにさわってもぼろぼろと毀(こわ)れる灰の人形
川端 康成 / 掌の小説 amazon
魚のように無表情な死骸
川端 康成 / 掌の小説 amazon
綿屑のようにころがる死骸
阿部 昭 / 千年 amazon
本人の意思とは関係なく活発に動く何かがあった。その光と熱があちこちの隙間から勝手に外に洩れ出ていた。
村上 春樹 / 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 amazon
オルガは細いジーンズに長袖の白いTシャツという格好の、金髪の女性だった。たぶん二十代後半だろう。身長は百七十センチ前後で、顔はふっくらとして、血色が良かった。裕福な農家に生まれ、そこで性格の良いおしゃべりな鵞鳥たちと一緒に育てられたという印象があった。
村上 春樹 / 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 amazon
まさに迷宮だ。通勤ラッシュの時刻にはその迷宮は人の海になる。海は泡立ち、逆巻き、咆哮し、入り口と出口をめがけて殺到する。乗り換えのために移動する人々の流れがあちこちで錯綜し、そこに危険な渦が生まれる。どんな偉大な預言者をもってしても、そのような荒々しく逆巻く海を二つに分かつことは不可能だろう。
村上 春樹 / 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 amazon
この男は見るからに、何をやってもまずうまく行かないというタイプだった。そういうタイプの標本みたいな男だった。まるで淡い青インクの溶液に一日漬けておいてから引っ張り上げたみたいに、彼の存在の隅から隅まで失敗と敗退と挫折の影が染みついていた。ガラスの箱に入れて、学校の理科室に置いておきたくなるような男だった。「何をやっても上手くいかない男」という札をつけて。
村上 春樹 / ダンス・ダンス・ダンス(上) amazon
テープレコーダーに吹き込んだ声が自分の声に聞こえないように、僕が捉えている僕自身の像は、歪んで認識され都合よくつくりかえられた像なのではないだろうか?@略@自己紹介する度に、人前で自分について語らなくてはならない度に、僕はまるで成績表を勝手に書き直しているような気分になった。
村上 春樹 / ダンス・ダンス・ダンス(上) amazon
明確な図形を描くための、より多くの点が要求される。そうしないと、何の回答も出てこない。
村上 春樹 / ダンス・ダンス・ダンス(上) amazon
何をしてもチャーミングに見えてしまうだけのことなのだ。ちょうど何に手を触れてもそれが黄金に変わってしまうあの伝説の王様のように。
村上 春樹 / ダンス・ダンス・ダンス(下) amazon
彼女がその四本の手脚を思い切り伸ばすと、その回りの空間までがぎゅっと四方に引き伸ばされたように感じられた
村上 春樹 / ダンス・ダンス・ダンス(下) amazon
まるで月光の滴りでも落してやるかのように病人の口の中へその水の滴を落してやった。
横光 利一 / 時間 amazon
お魚ごっこなら貴女は伊勢海老だ。胴体は細いくせに髭だけがピンと威張ってやがる
石坂 洋次郎 / 若い人 amazon
あんたは獏(ばく)みたいに、とらえどころがない
林 芙美子 / 女性神髄 (1949年) amazon
髪をお下げにして白い羅の着物を着ている彼女はほのかな街の灯かげで夕顔の花のようである。
宇野 千代 / 色ざんげ amazon
白樺のように、山の匂いの高い、澄んだ渓流のように作為のない、自然人であった。
葉山 嘉樹 / 海に生くる人々 amazon
醜悪な軟躰動物のようで、ただ嫌悪感しか与えられなかった。
山本 周五郎 / 青べか物語 amazon
brilliantという字の化身のようなそのお方
堀 辰雄 / 菜穂子 amazon
何を考えているのかさっぱりわからない、マネキン人形のような人
曽野 綾子 / 遠来の客たち amazon
大理石に端正に刻んだ像を見るように、冷やかで静かなところが見え
大仏 次郎 / 宗方姉妹 (1954年) amazon
大海原に単身投げ出された孤独な漂流者のような気持ちになった。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
ようやくトーテムポールの最下段に位置を定めることができたわけだ。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
チャールズは外見からいえば、皇太子というよりは、胃腸に問題を抱えた物理の教師みたいに見えた。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
名前は芥川真之介といった。立派な名前だ。文豪みたいだ。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
彼女は一定の強さで彼の手を握り続けていた。その指には、患者の脈を測っている医師の、職業的な緻密さに似たものがあった。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
彼女の顔にはいつも不透明な薄皮のようなものがかぶせられていた。存在の気配を消すためだ。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
あくまで陰の人間だからね、日の光には馴染まない
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
我々の身体は工場で規格どおりに造られた量産品ではないのだ。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 2 amazon
この男の場合、その左右の違い方が常識の範囲を超えていた。その誰にでもはっきりと視認できるバランスの狂いが、対面している相手の神経をいやおうなく刺激し、居心地を悪くさせた。まるで屈曲した(そのくせに嫌になるくらい鮮明な)鏡を前にしているときのように。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 2 amazon
第一印象を正直に語るなら、牛河という男は天吾に、地面の暗い穴から這い出てくる気味の悪い何かを連想させた。ぬるぬるとした正体のよくわからない何か、本当は光の中に出てきてはならない何かだ。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 2 amazon
(2年ぶりに認知症の父を訪ね、窓際に座る小さくなった父を見て)離れたところから見ると、人間というよりは、ネズミやリスの類に近い生き物のように見えた。あまり清潔とは言えないが、それなりにしたたかな知恵を具えた生き物だ。@略@父親だった。あるいは父親の残骸とでも言うべきものだった。二年の歳月が彼の身体から多くのものを持ち去っていた。まるで収税吏(しゅうぜいり)が、貧しい家から情け容赦もなく家財道具を奪っていくみたいに。@略@今目の前にいるのは、ただの抜け殻に過ぎない。温かみを残らず奪われてしまった空き屋に過ぎない。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 2 amazon
若い元気な学生たちの中に混じると、牛河の外観の異様さはいっそう際だっていた。彼のいる部分だけが、ほかとは違う重力や大気濃度や、光の屈折度を持っているみたいにも見えた。遠くから見ると、(ろくでもない話を持ってきた)彼は実際に不幸なニュースのようにしか見えなかった。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 2 amazon
カフェテリアは混み合っていたが、牛河の座っている六人掛けのテーブルには誰ひとり同席していなかった。レイヨウたちが山犬を避けるのと同じように、自然な本能に従って、学生たちは(異様な雰囲気を持つ)牛河をよけていた。
(略、彼は、)カフェテリアの人混みの中に消えていった。彼が歩いていくと、その道筋にいる男女の学生たちは自然に脇によって道をあけた。村の小さな子供たちが恐ろしい人買いを避けるみたいに。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 2 amazon
運転手の年齢は三十代の前半というあたりだった。痩せて、色白で、細長い顔をしていた。用心深い草食動物のように見える。イースター島にある石像のように顎が前に突き出している。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 2 amazon
硬い髪に白髪が混じりかけていて、年齢は五十前後だろう。何かの作業をしていたらしく、白衣は着ていなかった。グレーのスエットシャツに、お揃いのスエットパンツ、履き古したジョギング・シューズという格好で、体格も良く、療養所の医師というよりは、二部リーグからどうしても上がることのできない大学運動部のコーチのように見えた。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 2 amazon
一家にあって、彼は常に「異物」だった。調和を乱し、不協和音を作り出す間違った音符だった。一家で撮った写真を見ると、彼一人だけが明らかに場違いな存在だった。間違えてそこに入り込んで、たまたま写真に写ってしまった無神経な部外者のように見えた。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 3 amazon
写真映りのせいもあるのだろうが、彼らは建材を安価で粗悪なものにすり替える相談をしている二人の建築業者のように見えた。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 3 amazon
俺は石の湿った裏側に蠢いている虫けらみたいな、じめじめした薄汚い存在かもしれない。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 3 amazon
彼の右手を握っていた。その手はぬくもりを求める小さな生き物のように、革ジャンパーのポケットに潜り込み、中にある天吾の大きな手を握りしめていた。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 3 amazon
女が男に不満があるとしたら、出来合いのショートケーキのようなきらびやかさだった。地位、金、知性をこれほどバランスよく整えて持っている男に、女はつくりものめいた不信を感じてしまうのだった。
林 真理子 / 最終便に間に合えば amazon
老婦人は顔を伏せてちぢこまっているが、別にしょんぼりしている様子でもない。四十年も五十年もこの調子でどなりつけられてきて、何も感じなくなっているのだろう。@略@
(婆さんが言う)「すみませんねえ。うるさい、きたない年寄りで……」 テーブルの下の棚から、やっと「突き匙」が出てきたときには、吉田老は怒り過ぎたのか、いささかぐったりとしていた。姿勢をしゃんと正さず、半分起きた状態で果物を口に運ぶために、喉仏から鎖骨のあたりに果汁がぼたぼたこぼれ落ちる。婆さんはそれを見て、またしきりに〝きたない〟〝きたない〟と繰り返すのだった。 最初のうち、おれはこの老夫婦の会話をほほえましく聞いていたのだ。昔ながらの封建的だが駄々っ子のような亭主と忍従型の老妻とのやりとりとして。 誤算だった。 婆さんの顔は、押さえきれない喜びに輝いていた。 婆さんは、いまやじっくりと復讐を楽しんでいるのだった。愚鈍を装って、傲慢な夫の神経に、一本一本細い針を突き立てている。ののしられ、婢(はしため)あつかいされ続けたこの半世紀の間、婆さんはじっとこの日を待ち続けて耐えてきたのだろう。いまや、吉田老に残された武器は、どなり慣れた口だけだ。それも所詮は空砲だ。婆さんはいま、案山子の正体を知ったカラスになって、じわじわと一本足の吉田老に近づいていくのだった。
中島 らも / 今夜、すベてのバーで amazon
「大丈夫ですから」と言い残し、戦場に行くかのように勇ましくブースの中に消えた。
伊坂 幸太郎 / アイネクライネナハトムジーク amazon
穏やかな顔、鋭い視線、鈴木を見透かすような発言、あれらは特別な立場の男が持つ独特の迫力にも感じられた。向かい合って話をしているだけで、刃先で切られる気分になった。@略@あのただならぬ、静かな圧迫感は、尋常ではない。あれが押し屋でないとすれば、彼の持つ違和感の説明がつかない。
伊坂 幸太郎 / グラスホッパー amazon
大男が言った。穏やかな物言いだったが、奇妙な威圧感が空気を震わせた。周囲に立ち並ぶ杉の木から、声が発せられたのかと思うほどだ。
伊坂 幸太郎 / グラスホッパー amazon
顔の輪郭は丸々とし、腹のあたりに少し贅肉をたたえている。黒い眼鏡をかけ、髪は短い。眉は力強いものの、たとえば漫画に出てくる熊であるとか豚であるとか、そういう趣がある。漫画に出てくる動物と違う点と言えば、彼が人間であるとかそういう細かい差異ではなくて、実に簡単で大きな点だ。彼は、可愛らしくない。
伊坂 幸太郎 / 砂漠 amazon
ペンギンの集団を思い出す
伊坂 幸太郎 / マリアビートル amazon
颯爽としたスポーツ選手とでも言うような、誠実そうな外見
伊坂 幸太郎 / マリアビートル amazon
植木鉢の楓みたような小人
夏目 漱石 / 坊っちゃん amazon
誰も彼れも、扇の骨のように離れてばらばらに成って来ている
大仏 次郎 / 宗方姉妹 (1954年) amazon
女に好かれる男というものはいつも心の奥に赤ん坊の皮膚のような柔らかいいたいたしいところを持っていて
森田 たま / もめん随筆 amazon
おもちゃのような一家を構えた
岩野 泡鳴 / 耽溺 amazon
大森海岸あたりの、古下駄とか猫の死骸とかゴム製品とか、そんなような汚いものを一面に浮べた真黒な波が退くような感じで、二階の一団は稽古をすませて去って行った。
高見 順 / 如何なる星の下に amazon
この女房はいつも夫の大きな背中の後にかくれているように、つつましくしおらしくて
石川 達三 / 蒼氓 amazon
お羽織を召した背後姿の、美しいがひどく淋しい感じは、まるで心の中に沈められた一個の冷たい錘(おも)りのよう
井上 靖 / 猟銃「猟銃・闘牛 (新潮文庫)」に収録 amazon
このごろのお座敷ときたら、そういっちゃ悪いけど、縁台将棋のコマをぶちまけたようなお客ばっかり。
永井竜男 / 風ふたたび「永井龍男全集 5 長篇小説 1」に収録 amazon
圭子のような女は、つないだ綱の長さが許す範囲の草は、毒草といわず薬草といわず食って食って成長しようとする、動物のような生活力をもっていた。
平林 たい子 / 鬼子母神「筑摩現代文学大系 (41) 平林たい子・円地文子集 地底の歌 こういう女 嘲る 盲中国兵 鬼子母神 私は生きる 花散里 ひもじい月日 くろい紫陽花 男のほね 妖 二世の縁 他」に収録 amazon
砂丘の上の粒のような人間たち
葉山 嘉樹 / 海に生くる人々 amazon
雪崩れ込んだ避難民が@略@煙脂煙管(やにぎせる)のごとく、ぎっちり詰って動けなくなった。
里見 トン / 美事な醜聞「初舞台・彼岸花 里見トン作品選 (講談社文芸文庫)」に収録 amazon
すきやき鍋のようにごった返している
小松 左京 / 時の顔 amazon
働いて此(こ)の蟹の穴のような小さな家庭を培って行きたいと思った。
林 芙美子 / 魚の序文「風琴と魚の町/清貧の書 (新潮文庫 は 1-4)」に収録 amazon
小さな影が黒い礫(つぶて)のように広場の中に駈けだして行った。
林 房雄 / 青年 (1964年) amazon
由美が羽ばたきして飛立ってゆく若い鳥のように勇ましく見え
円地 文子 / 女坂 amazon
地を這うような、糞虫(くそむし)のような誠実さ
開高 健 / 裸の王様 amazon
手術台の上で俎(まないた)へ乗せられた魚のように、おとなしく我慢している
夏目 漱石 / 明暗 amazon
蠟細工のような、すべすべした肌
安部 公房 / 他人の顔 amazon
鼻の穴に酸素吸入や胃袋につながる管をつっこまれ、胸には何本もの心電図のコード@略@体じゅうに種々様々の管や紐がまるで大きな蜘蛛の巣のように纏りついている。
安岡 章太郎 / 酒屋へ三里、豆腐屋へ二里 amazon
まるで影のようなその後ろ姿
高見 順 / 如何なる星の下に amazon
鮨(すし)のように押しつめられてる
夏目 漱石 / 明暗 amazon
エジプトのミイラのように、両脚に厚い繃帯を施されて、身動きもできない
獅子文六 / 沙羅乙女
家の中に若い美しい女が居る事は、いつもストオブに火が燃えているとおなじように、心が和んでよいものだ
森田 たま / もめん随筆 amazon
血膿(ちうみ)に汚れて重そうに垂れ下るガーゼを、そばでも食うような手つきで引っぱり上げる
安岡 章太郎 / 海辺の光景 amazon
掘割(ほりわり)にあふれた雨後の水のように、駅から工場正門まで流れつづく通勤労働者の群
武田 泰淳 / 風媒花 amazon
火でもちょっとおこしたように、一時彼女をちょっと快活にする
宇野浩二 / 蔵の中 amazon
群集は、小学生が使ったケシ護膜(ごむ)の痕のように、まだ、小汚なく、十字路
のあちこちに落ち散っていた。
徳永 直 / 太陽のない街 amazon
河が水源から水を一越し瀬越しにもり上げたような生々(いきいき)して美事な姿態の女の子である。
岡本 かの子 / やがて五月に (1956年) amazon
魚が水を得たように溌刺と活動して
石坂 洋次郎 / 山のかなたに (1954年) amazon
草葉が霜にしおれるように、がくりと首をたれた。
森 鴎外 / 護持院原の敵討 amazon
顔には生気がみなぎり、低い団子鼻さえも急にむくむくと起きあがってくるように思われた。
尾崎 士郎 / 人生劇場 青春篇 amazon
死んだ時は手や足は箒の柄のように痩せていた。
田宮 虎彦 / 異母兄弟「異母兄弟―小説 (1957年) (カッパ・ブックス)」に収録 amazon
一人が買えば、あとはダボハゼを釣るように、あとからあとから食いついてくる。
高峰 秀子:松山 善三 / 旅は道づれガンダーラ amazon
日向(ひなた)のようにのびのびした人柄
藤沢桓夫 / 君に告げん
ごみごみした、玩具箱をひっくり返したような桟橋
林 芙美子 / 浮雲 amazon
チョコレートは容箱が立派なものだ。箱のためにチョコがあるのか、チョコのために箱があるのかわがらぬ場合があるが、英雄などといっても実は、生涯をチョコレートの箱にして終わったのも多い。
高田 保 / ぶらりひょうたん〈上〉 amazon
歯の抜けた痕のように、元木武夫の席が空いていた。
本庄 陸男 / 白い壁 amazon
勤め人の群れが、同じ思想と同じ目的を持っている人形のように
伊藤 整 / 氾濫 amazon
少年の感度の強い、ナイフの刃のような危険なかんじ
由起 しげ子 / 女中ッ子・この道の果に (1955年) amazon
天井から吊って干してある、白い昆布のような、幾条もの繃帯の列
安部 公房 / 他人の顔 amazon
死体は硬直してい、材木のように取りあつかいやすかった。
大江 健三郎 / 死者の奢り amazon
風に逐(お)われた紙ッ屑のように、露地から転がり出し、表通りをつつ走って、群集は王子の街全体に散らかった。
徳永 直 / 太陽のない街 amazon
後姿が暗い山の底に吸われて行くようだった。
川端康成 / 雪国 amazon
六年生ともなれば、みんなもうエンゼルのように小さな羽を背中につけて、力いっぱいに羽ばたいているのだ。
壺井 栄 / 二十四の瞳 amazon
一品料理のように一目でもってその内容がわかってしまうような、そんな心の貧しい浅い痩せた「三流」の女たち
高見 順 / 如何なる星の下に amazon
丹羽勘右ヱ門と、いまどきこんな古刀のような名前をぶらさげて歩こうものなら、いい笑いもので
林芙美子 / 馬の文章「(003)畳 (百年文庫)」に収録 amazon
親爺(おやじ)という老太陽の周囲を、行儀よく廻転するように見せている。
夏目 漱石 / それから amazon
神の前にあっては葦のように弱い人間の姿
福永 武彦 / 草の花 amazon
香水のようにほのぼのと情緒を匂わせて来る頼子。
岡本 かの子 / やがて五月に (1956年) amazon
耳の下で水枕がプカンプカンと音を立てている。@略@頭を動かすたびに、なまぬくい水がふなべりを叩く波のように鼓膜に伝わってくる。
向田 邦子 / 耳「思い出トランプ (新潮文庫)」に収録 amazon
人間なんて本当の処は、桶の底のウジのようにうごめき暮して居る惨めな生物に過ぎないんですな。
岡本 かの子 / 鶴は病みき amazon
わが家は、海綿のようにたっぶり日常性を吸い込んで
安部 公房 / 他人の顔 amazon
夜、十二時の浅草はしめったオブラートより寂しい。
サトウハチロー / 浅草悲歌
外国人の大きく白い手袋のようなふかぶかした掌のなか
大江 健三郎 / われらの時代 amazon
繃帯の隙間を、ねばねばした汗が、虫のように這いずりはじめる。
安部 公房 / 他人の顔 amazon
津軽リンゴか静岡茶の広告ポスターに、野良着姿で出て来る女のような素朴さを感じさせる娘
曽野 綾子 / たまゆら amazon
真っ白な繃帯の先から可愛い足の指が四本新芽のように覗いている
谷崎潤一郎 / 雪後庵夜話 amazon
彼らの姿はたしかに墓場に集まってくる幽霊を信太郎にも連想させた。
安岡 章太郎 / 海辺の光景 amazon
胴だけになった兵士が、一人大きな蟇(がま)のように
野上 彌生子 / 哀しき少年「野上彌生子全小説 〈8〉 哀しき少年 明月」に収録 amazon
はるかな海を見つめている2 人並んだ後姿の様子は、どこかしょんぼりと、どうしてか毅然としていて、飼主を待つ犬のようだった。
吉本 ばなな / TUGUMI(つぐみ) amazon
罪人のように深く頭を垂れながら
加能 作次郎 / 世の中へ amazon
そこに写っている三つばかりの幼児の面影から、アトリエに眠っていた少女の印象をたぐり出そうとするのであったが@略@どうにもつなぎ合せようのないはめ絵のように、ぴったりしないのであった。
横山 美智子 / R夫人のサロン「静かなる奔流 (1947年)」に収録 amazon
その手をにぎると、爬虫類の肌のように、ねっとりと冷たい。
北 杜夫 / 狂詩「北杜夫全集 第1巻 牧神の午後」に収録 amazon
幼少期から馴染んだおじいちゃんの顔が、こうしてなにか粘土で造った人形のような感じになってしまった
滝口 悠生 / 死んでいない者 amazon
彼は年齢以上に、落ち着いて見えた。胸板が厚く、背筋が伸びていた。誠実さを感じさせる眼差しのせいか、侍みたいだ、と思った。
伊坂 幸太郎 / オーデュボンの祈り amazon
できたての弁当の底みたいなほかほかしたあつくるしいオーラ
綿矢 りさ / 勝手にふるえてろ amazon
蜜にたかる蟻みたいに男が寄ってくる。
あさの あつこ「ガールズ・ブルー〈2〉 (文春文庫)」に収録 amazon
叔父は三年後に腸の癌を患い、体中をずたずたに切り裂かれ、体の入口と出口にプラスチックのパイプを詰め込まれたまま苦しみ抜いて死んだ。最後に会った時、彼はまるで狡猾な猿のようにひどく赤茶けて縮んでいた。
村上春樹「風の歌を聴け (講談社文庫)」に収録 amazon
遠くから眺めた僕たちの姿はきっと品の良い記念碑のように見えたことだろう。
村上 春樹「1973年のピンボール (講談社文庫)」に収録 amazon
3フリッパーの「スペースシップ」は列のずっと後方で僕を待っていた。彼女は派手なメーキャップの仲間たちにはさまれて、ひどくもの静かに見えた。森の奥で平たい石に座って僕を待っていたようだった。
村上 春樹「1973年のピンボール (講談社文庫)」に収録 amazon
マンションや飲食店が立ち並んでいる場所から、店の方へ歩いていくにしたがって、オフィスビルしかなくなっていく。 その、ゆっくりと世界が死んでいくような感覚が、心地いい。
村田 沙耶香「コンビニ人間」に収録 amazon
若くして得た巨万の富の輝きを発するだけでなく、人を不愉快、不安定にさせる特性は、他の社長にはない、まるで光を独特に偏向させるプリズム的魅力があった。
水道橋博士「藝人春秋 (文春文庫)」に収録 amazon
診察室をのぞくことができた。先生も看護婦もいなかった。そこは放課後の理科室のように薄暗かった。
小川 洋子「妊娠カレンダー (文春文庫)」に収録 amazon
製氷機の出口のように人がざくざくとあふれてくる化粧品売り場
川上 未映子 / あなたたちの恋愛は瀕死「乳と卵(らん) (文春文庫)」に収録 amazon
わっとやってきて、わっと去っていく。イナゴの大群のようなものか
伊坂 幸太郎「陽気なギャングが地球を回す (祥伝社文庫)」に収録 amazon
患者の手足はかたくこわばり、木づくりの人形のようだった
北社夫 / 夜と霧の隅で amazon
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