影の表現・描写・類語

路地には濃い日陰だけがある

日はどっぷりと暮れて黒い影を作る

後ろの光のせいで、その顔は落ち窪んだ眼窩が黒々とした影を作りどくろに似ている

道は巨木の影がいたる所にはびこっていて影は影に溶けて地を占めている

光が樹木に遮られて壁に作る黒ずんだ意匠

月のきれいな夜、田んぼのそこかしこに稲木が鮮明な影を落とす

押し付けるような暗い陰影

その建物は裏側から月光を受け、暗い複雑な影を折りたたむ

白い砂に鮮やかな影を落とす

蝋燭の光はモノの形を光の世界と影の世界との二つにくっきり分けた

ろうそくの火は物の形を、光りの世界と影の世界との二つにくっきり分ける

ランプの光で顔がフィルムのネガのような陰影を作る

影が鋳込んだように濃い

背後にある夕日が、影を槍のように長く尖らせる

光と影が水のように揺れ走る

雷雲に襲われた渓間のようにけわしく暗い影

黒犬のような影が足もとへとびかかる

ぼおっと燐光を放ちながら浮かんでくるほの白い影

息で霧のように少し湿った口ひげ

影法師が行灯（あんどん）の紙に途方もなく大きく映る

（蝋燭の火で）壁の上の影も大きく揺れた。壁そのものが崩れ落ちるんじゃないかという気がするくらい大きく、ぐらぐらと。

天井の電球による小さくて濃い影とアルコールランプによる薄い巨大な影の重なった部分は、まるで生き物のような複雑な動きをする。分裂する時のアミーバそっくりだ。

大きな翼をひろげ、この平野の紋章のように、夕焼けの中にその堂々たる真黒な影法師を描き出した。

厚みのある巨大な影

白いドレスに樹々の影が落ちて複雑な象形文字を描いている。

夜よりも黒い影

街灯が照り、影が細長く、車道に伸びている

太陽が彼女の身体を照らし、その背後に長い影を作っている。僕たちの影よりも数倍は大人びていた彼女は一歩も二歩も人生を先へ進んでいるのかもしれないな、なぜかそう思えた。

坂（さか）の下に大きな一つの街燈（がいとう）が、青白く立派（りっぱ）に光って立っていました。ジョバンニが、どんどん電燈（でんとう）の方へおりて行きますと、いままでばけもののように、長くぼんやり、うしろへ引いていたジョバンニの影（かげ）ぼうしは、だんだん濃（こ）く黒くはっきりなって、足をあげたり手を振（ふ）ったり、ジョバンニの横（よこ）の方へまわって来るのでした。

二人（ふたり）がその白い道を、肩（かた）をならべて行きますと、二人（ふたり）の影（かげ）は、ちょうど四方に窓（まど）のある室（へや）の中の、二本の柱（はしら）の影（かげ）のように、また二つの車輪（しゃりん）の輻（や）のように幾本（いくほん）も幾本（いくほん）も四方へ出るのでした。

電燈を横切る度（たび）に、大きな影がペンキを塗った、煤（すす）けたサイドに斜めにうつった。

竈（へっつい）の影は斜めに揚板（あげいた）の上にかかる。

僕の影は前のように絶えず左右に動いていた。僕は怯（お）ず怯ずふり返り、やっとこのバアの軒に吊（つ）った色硝子（ガラス）のランタアンを発見した。ランタアンは烈しい風の為に徐（おもむ）ろに空中に動いていた。

どこまで行っても空には雲ひとつなく、地上には終始飛行機の影が映っていた。正確に言えば我々は飛行機に乗っているのだから、その山野を移ろう飛行機の影の中には我々の影も含まれているはずだった。だとすれば、我々もまた地上に焼きつけられているのだ。

枯れた木々のシルエットが濃く切り抜かれて

苔（こけ）の上に木の影が踊（おど）って

磧に面した家々が、そこに午後の日蔭を作っていた。

日蔭は日表（ひなた）との対照で闇のようになってしまう。

低地を距てた洋館には、その時刻、並んだ蒼桐（あおぎり）の幽霊のような影が写っていた。

死のような影

月が少し西へ傾きはじめた頃と思います。もしそうとすればＫ君のいわゆる一尺ないし二尺の影は北側といってもやや東に偏した方向に落ちる

自分の影を両側の街燈が次には交互にそれを映し出した。後ろから起って来て前へ廻り、伸びて行って家の戸へ頭がひょっくり擡（もちあが）ったりする。慌（あわただ）しい影の変化を追っているうちに自分の眼はそのなかでもちっとも変化しない影を一つ見つけた。極く丈の詰った影で、街燈が間遠になると鮮（あざや）かさを増し、片方が幅を利かし出すとひそまってしまう。「月の影だな」と自分は思った。見上げると十六日十七日と思える月が真上を少し外れたところにかかっていた。自分は何ということなしにその影だけが親しいものに思えた。

電信柱の細いかげが針のような影を引いている。

（この後自殺する女の暗示）空の色に比べて、彼女の影が薄かった。唇が蒼く、目は赤かった。

石の鳥の影は生い茂った雑草の葉の上に落ちて、ばらばらな形に分断されていた。

（夕方、競技場の影）競技場を 挟んでちょうど真向かいにあたる観覧席の上段に、三本のポールが立っていて、それが邦彦と老人のいる場所まで長い影を落としていた。三本の影は、楕円形の競技場の中心を貫いて、邦彦の背後のまだずっと遠くへと伸びていた。どんな強風にも左右されない一直線の影というものが、邦彦には妙に不思議な現象に思われた。 　ポールが揺れないかぎり、影も決して揺れはしないのだと、邦彦は新しい物理的法則を発見したかのように、その三本の黒い線を見つめた。

黒いしかし透き通ったような影