日本語表現インフォ > 暮らしの表現 > 事件・事故 > 麻薬・覚せい剤・ドラッグ
麻薬・覚せい剤・ドラッグの表現・描写・類語
戸棚から銀色の箱に入った細い注射器を取り出した。茶色の小瓶を灯りに透かして液体の量を確かめると、規定分だけ注射器に吸わせて、身を屈めて太股に打った。
村上 龍 / 限りなく透明に近いブルー amazon
(多めのヘロインを打たれて)皮膚が震えて針が離れた瞬間、もうヘロインは指の先まで駆け巡り、鈍い衝撃が心臓に伝わってきた。視界に白い霧のようなものがかかり《…略…》息を吸いたいが呼吸のリズムが変わっていてうまくできない。殴られたように頭が痺れていて口の中が焼ける程乾いている。《…略…》カラカラになった歯茎から少しだけ滲み出た唾液を呑み込むと、足先から駆け昇るように吐き気が込み上げて、呻きながらベッドに倒れた。《…略…》枕に顔を埋める。喉の奥は乾いているのにひっきりなしに唾液が唇から溢れ、それを舌ですくうたびに猛烈な吐気が下腹に襲ってくる。思いきり息をしてもほんの少ししか空気は入ってこない。それも口や鼻からではなく胸に小さな穴があってそこから漏れ込むような感じだ。腰は動けない程痺れている。締めつけられるような痛みが時々心臓を刺す。顳顬(こめかみ)で脹れた血管が思い出すようにヒクヒク震える。目を閉じるとものすごいスピードで生暖い渦の中に引き込まれるような恐怖を感じる。からだ中をヌルヌルと愛撫されて、ハンバーグに乗せられたチーズみたいに溶けていくようだ。試験管の中の水と油塊のように、からだの中で冷えきっている部分と熱をもったところが分離して動き回っている。頭や喉や心臓や性器の中で熱が移動している。
村上 龍 / 限りなく透明に近いブルー amazon
部屋では中央に拳程もあるハシシが香炉で焚かれ、立ち込める煙は呼吸のたびに否応なく胸に入ってくる。三十秒もたたないうちに完全に酩酊する。からだ中の毛穴から内臓がドロドロと這い出し、他人の汗やら吐く息が入り込んでくるような錯覚に陥いる。
特に下半身は重い沼につかったように爛れ、口は誰かの器官をくわえたくて、体液を飲み込みたくてムズムズしている。皿に盛られた果物を食べワインを飲むうちに、部屋全体が熱の冒され始めて、自分の皮膚を引き剥がして欲しいと思う。ツルツルした油にまみれている黒人達の肉体を体内に入れて揺すりたいと感じている。
村上 龍 / 限りなく透明に近いブルー amazon
(ハシッシを吸ってしばらくすると、)秘密のスイッチをオンにするようなかちんという音が耳元で聞こえ、それから天吾の頭の中で何かがとろりと揺れた。まるで粥を入れたお椀を斜めに傾けたときのような感じだ。脳味噌が揺れているんだ、と天吾は思った。それは天吾にとって初めての体験だった――脳味嗜をひとつの物質として感じること。その粘度を体感すること。(家の外で鳴く)フクロウの深い声が耳から入って、その粥の中に混じり、隙間なく溶け込んでいった。《…略…》彼の脳味噌はとろりと重く、原始の海のように生命の萌芽を湛えていた。しかしそれは彼をどのような地点にも導かなかった。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 3 amazon
モルヒネを注射しました。不安も、焦燥 も、はにかみも、綺麗 に除去せられ、自分は甚だ陽気な能弁家になるのでした。そうして、その注射をすると自分は、からだの衰弱も忘れて、漫画の仕事に精が出て、自分で画きながら噴き出してしまうほど珍妙な趣向が生れるのでした。 一日一本のつもりが、二本になり、四本になった頃には、自分はもうそれが無ければ、仕事が出来ないようになっていました。
太宰治 / 人間失格 青空文庫
あと 9 個の表現が登録されています
ログインして全部見る
ログインして全部見る
同じカテゴリの表現一覧
事件・事故 の表現の一覧
暮らしの表現 大カテゴリ