右上がりのとがった文字だった。 サトウの字は昆虫のようだと、わたしはいつも思う。指先にのせると、足先に密集している小さな棘や、胸の硬い甲羅や、神経質に動く触角が皮膚をチクチク刺して気持ち悪い、そんな字だ。
小川洋子 / 冷めない紅茶「完璧な病室 (中公文庫)」に収録 ページ位置:29% 作品を確認(amazon)
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前後の文章を含んだ引用
......ングの壁に掛かった黒板に、サトウからの伝言があった。『一件、何とか契約が取れそうです。間取りの打ち合わせがあるので、今晩は遅くなります。先に寝ていて下さい。』 右上がりのとがった文字だった。 サトウの字は昆虫のようだと、わたしはいつも思う。指先にのせると、足先に密集している小さな棘や、胸の硬い甲羅や、神経質に動く触角が皮膚をチクチク刺して気持ち悪い、そんな字だ。 わたしは、黒板消しでサトウの伝言を勢いよく消した。使い古した黒板で、力を込めてこすらないときれいに消えなかった。 サトウが初めてこの黒板を買って帰った時、彼は......
単語の意味
指先(ゆびさき)
胸(むね)
指先・・・手や足の、指の先端。指の先っぽ。指頭(しとう)。指端(したん)。
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天道虫のように丸々した頭も尻尾もない字
田辺 聖子 / 休暇は終った amazon
丁寧でまるみのある読みやすい字
小川 洋子 / ドミトリイ「妊娠カレンダー (文春文庫)」に収録 amazon
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作品の中にぬるりと顔を出す薄気味の悪い狂気や、彼のブラックユーモアを常に覆っている屍臭のようなもの
中島 京子「小さいおうち (文春文庫)」に収録 amazon
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村上春樹「風の歌を聴け (講談社文庫)」に収録 amazon
蟻がわがまま放題に行列を作っているような、赤ん坊が不恰好に積み木を重ねたような、偶然で無秩序で取り留めのない数字の羅列
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