(電話の時報)時報を聞くのが僕は好きだった。そこはどこまでも果てしのない、何ものにも乱される恐れのない、安定した世界だった。たとえ僕がクシャミをしても、お姉さんは迷惑そうな様子さえ見せず、ひたすら時刻を知らせ続ける。一秒ごとに刻まれる歯車の船の 舳先 に立ち、次々と誕生する新たな時刻を、まっさらな海面に向かって宣告する。大変な重労働だと思われるのに、口調は滑らかだ。
小川 洋子 / 先回りローバ「口笛の上手な白雪姫」に収録 ページ位置:8% 作品を確認(amazon)
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......2時52分30秒をお知らせします……ピッピッピッピー……午後2時52分40秒をお知らせします……ピピピピ……ピー……午後2時52分50秒をお知らせします……」 時報を聞くのが僕は好きだった。そこはどこまでも果てしのない、何ものにも乱される恐れのない、安定した世界だった。たとえ僕がクシャミをしても、お姉さんは迷惑そうな様子さえ見せず、ひたすら時刻を知らせ続ける。一秒ごとに刻まれる歯車の船の舳先に立ち、次々と誕生する新たな時刻を、まっさらな海面に向かって宣告する。大変な重労働だと思われるのに、口調は滑らかだ。「……午後2時53分ちょうどをお知らせします……ピッピッピッピー……」 それでも時折、くたびれるんじゃないか、どこかでつっかえるんじゃないかと心配になり、つい受......
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時間の存在そのものさえ忘れてしまうようなゆったりとした時間
落合 恵子 / センチメンタル・シティ amazon
腕時計をはずしてストップ・ウォッチのモードに切りかえ、スイッチを押した。ディジタルの数字が 1 から 10 までを刻んだ。これで十秒だ。
村上春樹 / ねじまき鳥と火曜日の女たち「パン屋再襲撃 (文春文庫)」に収録 amazon
飛び出すと目の前にセダンがちょうど停まるところだった。「早く乗れよ、早く乗れよ」と興奮して身体を揺らす車が誘ってくるように、響野には見えた。
伊坂 幸太郎「陽気なギャングが地球を回す (祥伝社文庫)」に収録 amazon
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