長い退屈な映画を見ているような一日だった。時間を無駄に潰すというのもなかなか骨の折れるものなのだ。

手持ち無沙汰の気持ち

喫茶店や本屋で時間を潰したり、あてもなく歩き回ったり、何もせず駅のベンチにすわって行き交う人々を眺めていたりする。

手持不沙汰（てもちぶさた）を紛らすための意味だけに、そこの棕櫚（しゅろ）の葉かげに咲いている熱帯生の蔓草（つるくさ）の花を覗（のぞ）いて指して見せたりした。

ハンバーガーショップに入って、熱いコーヒーを飲みながらねばれるだけねばる。

空中の蝿をつかめそうなくらいの速くて正確

ひたすら進み入ろうとするその世界は、果てしも知らぬ白濁（はくだく）の波の彼方（かなた）の渾沌未分の世界である。《…略…》どこまでもどこまでも白濁無限の波に向って抜き手を切って行く

そしてこの時はもう実母の死も純然たる過去に送り込まれてしまった

時の洗礼を受けている

何をしていいのか見当もつかない。いつまでも壁を睨んでるわけにもいくまい、と自分に言いきかせる。それでも駄目だった。卒論の指導教授がうまいことを言う。文章はいい、論旨も明確だ、だがテーマがない、と。実にそんな具合だった。久し振りに一人になってみると、自分自身をどう扱えばいいのかが上手く把めなかった。《…略…》まるで捜し物の最中に、何を捜していたのかを忘れてしまったような気分だった。