割箸を持つ手が細かく震えて来た。袖口や襟のあたりのよれよれになった汚い黒サージの学生服の長い上半身が膳を前にしてその上に蔽いかぶさるようにしていたが、顎を落しているため一層猫背になった彼の体は出口を持たぬ怒りを全身に閉じ込めていた。右手の箸に挟んだ蒟蒻が小刻みに波打って来た。箸が重かった。心の怒りと侮辱感とに重かった。
野間 宏 / 暗い絵「暗い絵・顔の中の赤い月 (講談社文芸文庫)」に収録 ページ位置:29% 作品を確認(amazon)
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怒りに震える
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前後の文章を含んだ引用
......の前で、そんなこと言うもんじゃありませんよ。深見さんが弱りきっておしまいになってるじゃないの。」そして女の子を追い立てるようにして台所の方に去った。 深見進介の割箸を持つ手が細かく震えて来た。袖口や襟のあたりのよれよれになった汚い黒サージの学生服の長い上半身が膳を前にしてその上に蔽いかぶさるようにしていたが、顎を落しているため一層猫背になった彼の体は出口を持たぬ怒りを全身に閉じ込めていた。右手の箸に挟んだ蒟蒻が小刻みに波打って来た。箸が重かった。心の怒りと侮辱感とに重かった。《鼻奴、鼻奴。》と何故ともなく彼は心に言った。彼はちらとこの谷口順次に以前金を借りたことがあることを思い出した。すると、彼の中に満ちながら燻っていた羞恥心が、一......
単語の意味
体(からだ)
上半身(じょうはんしん・かみはんしん)
襟・衿・領(えり)
顎・頤・腭(あご)
右手(みぎて)
体・・・頭・胴・手足など、肉体全体をまとめていう言葉。頭からつま先までの肉体の全部。身体。体躯。五体。健康。体力。
上半身・・・体の、腰から上の部分。上体(じょうたい)。⇔下半身(かはんしん・しもはんしん)。
襟・衿・領・・・1.衣服の、首を取り囲む所につけられている部分。また、そこにつける縁どりの布。カラー(collar)。和服では、前で交わる細長い部分やそこにつける布を指す。
2.首の後ろの部分。首筋。うなじ。
3.掛け布団の、首に直接あたる部分にかける細い布。
2.首の後ろの部分。首筋。うなじ。
3.掛け布団の、首に直接あたる部分にかける細い布。
顎・頤・腭・・・1.口の上下の、歯の生えている部分で、話したり物を噛んだりするのに役立つ器官。
2.下あご。頤(おとがい)。
3. 釣り針の先に逆向きにつけた返しのこと。釣り針のかかり。鐖・逆鉤・逆鈎(あぐ)。
4.機械や道具などで、物をつかんだり引っ張ったりする開閉部分。
5.食事。食料。まかない。食費。
6.口をきくこと。物言い。おしゃべり。
2.下あご。頤(おとがい)。
3. 釣り針の先に逆向きにつけた返しのこと。釣り針のかかり。鐖・逆鉤・逆鈎(あぐ)。
4.機械や道具などで、物をつかんだり引っ張ったりする開閉部分。
5.食事。食料。まかない。食費。
6.口をきくこと。物言い。おしゃべり。
右手・・・1.右の手。 ⇔ 左手(ひだりて)。
2.右の方向。右側。
2.右の方向。右側。
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自分の言葉は稜針 で、それを倉地の心臓に揉 み込むというような鋭い語気
有島武郎 / 或る女
陣治を傷つけたい。最も効果的にダメージを与える言葉を選びだして、陣治の心臓にまっすぐ突き立てたい。
沼田 まほかる「彼女がその名を知らない鳥たち (幻冬舎文庫)」に収録 amazon
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野間 宏 / 暗い絵「暗い絵・顔の中の赤い月 (講談社文芸文庫)」に収録 amazon
ぶんなぐってやりたいほどの怒りを覚えた。
池井戸潤「下町ロケット (小学館文庫)」に収録 amazon
不思議だ。あれほど烈しい怒りの頂点にいながら、わたしはその怒りを怒りとして認識してはいなかった。わたしの中のどこかに、まっすぐな、まじりけのない怒りそのものを 弄び、楽しもうとしている何かが潜んでいた。
小池真理子「愛するということ (幻冬舎文庫)」に収録 amazon
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全身を憤怒の火にして、ぶるッと、彼の本性が、その唇をつよく噛んだ
吉川英治 / 雲霧閻魔帳
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