おやすみ、とわたしたちは言い合って、最後にキスを交わした。 　二度にわたる性交の後のキスは、 凪いだ水面のように穏やかで、優しかった。

サユリはグラスに口を付けた。情事の後だと言うのにワインの味に変わりがない。事の始まる前と同じような快適さで甘い香りが彼女の喉を滑って行く。何ごともなかったかのように、スムーズ。

（セックス後）十和子の胸から腕が外れると、密着して汗ばんでいた皮膚に部屋の空気がひんやり触れてくる。

疲れた二人がまるで一緒くたの ごみ﹅﹅ のように目を閉じて動かずにいた

絡み合っている体を解いて、全裸のまま身を起こし、ぐったりと横坐りになって自分を見おろしてきた際の、鈴子の体のくねらし方が、武内は好きだった。

男の人は嘘つきが多いな。

頻（しき）りにときめかけ、縺（もつ）れかけている小娘の肉体

野呂は乾ききっていたわたしの口の中を甘い蜜のような水で潤し始めた。おかしな言い方かもしれないが、実際、それは、〝舐めとるような〟キスだった。乾いたもの……例えばビスケットのようなものを舐めて舐めて潤して、充分に濡らしてやわらかくしてから食べ尽くそうとするかのような……。 　自分の口の中が、次第に彼の蜜で潤わされていくのを感じた。彼の唇のやわらかさ、なめらかさは信じられないほどだった。わたしは砂漠に降る雨を思った。砂が水を吸いこんでいく時の、あの幸福な静けさがわたしを包んだ。

口説く

接吻の味が十一氏の心に清涼な香水をそそいでくれるようだった。