鼻を 這い上ってくる

淡い芳香が私の顔を撫でて胸の奥までほのめき入った。

匂いが細かな霧のように辺りを漂っている

鼻を突く

何らかの匂いを放つこともなく、潮風にとけて消えていった。

（においつわり、吐き気を催すにおい）バターと脂と卵と豚のにおいが、家中にこもってて息ができないわ《…略…》朝目が覚めたら、そのすさまじいにおいが身体中に染み込んできたわ。口も肺も胃もひっかき回されて、内臓がぐるぐる渦を巻いてた《…略…》どうしてうちには、こんなににおいがあふれてるの。なんでもかんでも気持ち悪いにおいを振りまくの《…略…》あらゆるものがにおうの。一つのにおいがアメーバみたいにどろっと広がって、別のにおいがそれを包み込んで膨張して、また別のにおいがそれに溶けていって、……もうきりがないわ《…略…》においがどんなに恐ろしいものか分る？　逃げられないのよ。容赦なくどんどんわたしを犯しにくるの。においのない場所へ行きたい。病院の無菌室みたいな所。そこで内臓を全部引っ張り出して、つるつるになるまで真水で洗い流すの

土、風、夜の自然の匂いは匂いと呼んでいいのか分からないほど空気に溶け込んでいるが、それでも確かにその野性的な気配を嗅ぐことができる。都会にはない、匂いの殺ぎ落とされぶりだ。

饐えた臭気

陽をたっぷり吸い込んであたたかい匂いをたてている

（病院のダスト室の）中はとても不思議な臭いに満たされている。ここに入るたびに、この臭いを何かで形容しようとするけれど、いつもうまくいかない。