寐（ね）不足のため変に心が誘われ易く、物に即し易くなっていた

心が柔らかく物にも感じやすい若い娘

何の為に、こんなとこへまで歩いて来たのかさっぱり判らない。真実を云えば、商売をする事よりも、只、己れのセンチメンタルに引きずられて歩いていたい下心なのかも知れない。歩いて、いい事もないとなれば、それがまた、自分を悲しくやるせなくしていると、私は甘くなって、下駄を引きずりながら歩く。

（感傷的な文章の手紙）ああこんな感傷を手紙の中にいれる事は止めましょう。イサベラ皇后様がコロンブスを見つけた興奮で、私のペン先はもうしどろもどろなのだ。

少女のように敏感な魂

感覚が鈍くて触れられても気付かない

時折見せる眼つきが生理的に好きになれなかった

明るい性格のその奥に、柔らかく傷つきやすい感受性が潜んでるため、直観も秀でている。

そのときまた、ふいにさっきの感じが襲って来た。いいしれぬ圧迫感、ゆがむ空気、苦しい呼吸。 　青空も、新鮮な海風も、品のいいサンドイッチ屋も、遠のいていく。旅の期待と解放感も。 　ただただみじめな胸の苦しみだけが満ちてくる。風邪とか、花粉症とか、高山病に似ている。ものがちゃんと手につきそうもない。

魔物に化されたような、夢みたいな話