あのことがあって、かれこれ一年になるというのに、英子は指という字が怖かった。 新聞や雑誌をひらくと、指という字だけが向うから飛び込んで来た。その字だけ活字が違って大きく見えた。胸が痛む、という言いかたは本当である。そういうとき、英子は胸のまんなかあたりが締めつけられるように痛くなり、うっすらと冷汗をかいているのが判った。
向田邦子 / 大根の月「思い出トランプ(新潮文庫)」に収録 ページ位置:0% 作品を確認(amazon)
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心の傷・トラウマ
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大根の月 あのことがあって、かれこれ一年になるというのに、英子は指という字が怖かった。 新聞や雑誌をひらくと、指という字だけが向うから飛び込んで来た。その字だけ活字が違って大きく見えた。胸が痛む、という言いかたは本当である。そういうとき、英子は胸のまんなかあたりが締めつけられるように痛くなり、うっすらと冷汗をかいているのが判った。 よく見ると、指そのものではなく、指名であったり指示、指定で、ほっとして力が抜けるのである。 怖いのは指という字だけではなかった。 小学校一年生の姿を見るのが辛かった。特に男の子がいけない。真新しい学帽とランドセルが歩いているような姿が、母親に手を引かれているのを見ると、みんな健太に見えた。見たくない、目をつ......
単語の意味
胸(むね)
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不幸な思いが黒い石ころになって胸につかえる
壷井 栄 / 草の実 (1962年) amazon
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(数々の)思い出が彼の心をゆっくりと横切っていった。
遠藤 周作「海と毒薬 (角川文庫)」に収録 amazon
残していった言葉がくるくると光の渦のように旋回する
山本 周五郎 / 髪かざり amazon
家を何日もあけることが多かったので、父にまつわる思い出は、どれもみな感慨の少ない不鮮明なものばかりだった。
宮本 輝「道頓堀川(新潮文庫)」に収録 amazon
「元気ですか?」と天吾(息子)は尋ねた。「おかげさまで」と父親はあらたまった口調で言った。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 2 amazon
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