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あのことがあって、かれこれ一年になるというのに、英子は指という字が怖かった。  新聞や雑誌をひらくと、指という字だけが向うから飛び込んで来た。その字だけ活字が違って大きく見えた。胸が痛む、という言いかたは本当である。そういうとき、英子は胸のまんなかあたりが締めつけられるように痛くなり、うっすらと冷汗をかいているのが判った。
向田邦子 / 大根の月「思い出トランプ(新潮文庫)」に収録 ページ位置:0% 作品を確認(amazon)
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大根の月 あのことがあって、かれこれ一年になるというのに、英子は指という字が怖かった。 新聞や雑誌をひらくと、指という字だけが向うから飛び込んで来た。その字だけ活字が違って大きく見えた。胸が痛む、という言いかたは本当である。そういうとき、英子は胸のまんなかあたりが締めつけられるように痛くなり、うっすらと冷汗をかいているのが判った。 よく見ると、指そのものではなく、指名であったり指示、指定で、ほっとして力が抜けるのである。 怖いのは指という字だけではなかった。 小学校一年生の姿を見るのが辛かった。特に男の子がいけない。真新しい学帽とランドセルが歩いているような姿が、母親に手を引かれているのを見ると、みんな健太に見えた。見たくない、目をつ......
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胸(むね)
・・・1.体の前面で、首と腹との間の部分。また、その内側にある心臓や肺臓、胃などの内臓。
2.(胸に宿るとされている、)心。想い。心中。
3.乳房(ちぶさ)。おっぱい。
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(数々の)思い出が彼の心をゆっくりと横切っていった。
遠藤 周作「海と毒薬 (角川文庫)」に収録 amazon
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