玉を出し、軽く突いてみた。キューを伝わって、懐かしい弾力が肩のつけ根まで響いてきた

紙一枚ほどの微妙な軌跡と接点を確実にとらえながら、親玉は三回のクッションを果たして目的の玉に 還かえって来た。

（ビリヤード場）煙草のけむりが 眩 ゆい天井に固まってたゆとうている。ポケット・ゲームのボールが、赤や黄や茶の帯をくねらせて転げ 廻り、 象牙 の玉の音が強く弱く絶え間なく八台のテーブルの上で響いていた。立てたキューが台の周囲を囲み、危うく天井の 蛍光灯 に当たりそうになり、 澱んだ空気を 攪拌 して、笑い声やら叫び声やら、ぶつぶつつぶやく低い声の中で泳いでいた。

象牙の玉と玉がぶつかり合う固い音

大きく息をして、キューの先にチョークを塗った。それから長いあいだ考えていたが、意を決したように構えると、白玉を先に一回赤玉に当てておいてから三度のクッションを使い、残りの白玉に持っていった。

ボールのやり取りに夢中

一粒でもしぶきを少なくして、針を突き刺すように入水するために、その瞬間純人名の手首は二つぴったり重なり合って、揺れる水の壁を突き破ってゆく。

隣の台でナインボールに興じている若者が、渾身の力をこめてブレイク・ボールを撞き（つき）出す。乾いた破裂音があたりに満ち、小さな歓声が続く。

身体を左右に振りながら登って行った。

打球はさながら悪魔の背に乗ったように思い通りの位置へ飛んで行く。