(演奏が上達する)最初に聴いたときは、まだ双葉だったかもしれない。でも、ぐんぐん育った。茎を伸ばし、葉を広げ、ようやく蕾の萌芽を見せたのだと思う。
宮下 奈都「羊と鋼の森 (文春文庫)」に収録 ページ位置:75% 作品を確認(amazon)
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......はいだ。和音のピアノは以前からすごかった。そこに、今日は何かが加わっていた。「ああ、びっくりしたなあ。化けたよなあ」 化けたんじゃない。和音は前から和音だった。最初に聴いたときは、まだ双葉だったかもしれない。でも、ぐんぐん育った。茎を伸ばし、葉を広げ、ようやく蕾の萌芽を見せたのだと思う。これからだ。「前から、すごかったと思います」 控えめに告げると、社長は太い眉を上げて僕を見た。「そうか、そうだったよな、外村くんはずいぶん肩入れしてたな。でも、......
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(演奏が上達する)最初に聴いたときは、まだ双葉だったかもしれない。でも、ぐんぐん育った。茎を伸ばし、葉を広げ、ようやく蕾の萌芽を見せたのだと思う。
宮下 奈都「羊と鋼の森 (文春文庫)」に収録 amazon
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(過剰数と不足数)18 は1+2+3+6+9=21だから過剰数だね。 14 は1+2+7=10で、不足数になるわけだ」 私は 18 と 14 を思い浮かべた。博士の説明を聞いたあとでは、それらは最早ただの数字ではなかった。人知れず 18 は過剰な荷物の重みに耐え、 14 は欠落した空白の前に、無言でたたずんでいた。
小川洋子「博士の愛した数式 (新潮文庫)」に収録 amazon
水入れから水を注ぎ、墨を真直ぐに立てて静かに動かし、筆を浸す。そんな一つ一つの仕草が間のびするくらいゆったりとしていて、厳かな儀式めいている。
小川洋子 / ダイヴィング・プール「完璧な病室 (中公文庫)」に収録 amazon
(彼にとって)正解を得た時に感じるのは、喜びや解放ではなく、静けさなのだった。
小川洋子「博士の愛した数式 (新潮文庫)」に収録 amazon
(足元に書き付けた難解な数式)今、私たちの足元にだけ、宇宙の秘密が透けて浮かび上がっているかのようだった。神様の手帳が、私たちの足元で開かれているのだった。
小川洋子「博士の愛した数式 (新潮文庫)」に収録 amazon
(ノートのページいっぱいに書かれた数式)私はページを撫でた。博士の書き記した数式が指先に触れるのを感じた。数式たちが連なり合い、一本の鎖となって足元に長く垂れ下っていた。私は一段一段、鎖を降りてゆく。風景は消え去り、光は射さず、音さえ届かないが怖くなどない。博士の示した道標は、なにものにも侵されない永遠の正しさを備えていると、よく知っているから。 自分の立っている地面が、更に深い世界によって支えられているのを感じ、私は驚嘆する。そこへ行くには数字の鎖をたどるより他に方法がなく、言葉は無意味で、やがて自分が深みに向かおうとしているのか、高みを目指そうとしているのか、区別がつかなくなってくる。ただ一つはっきりしているのは、鎖の先が真実につながっているということだけだ。 私は最後の一冊の、最後のページをめくる。不意に鎖は途切れ、私は暗闇の中に取り残される。もうあと少し歩みを進めれば、目指すものはすぐそこにあるかもしれないのに、どんなに目を凝らしても、次に踏み締めるべき数字はどこにも見つけられない。
小川洋子「博士の愛した数式 (新潮文庫)」に収録 amazon
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