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心の奥底に葛籠を抱いていた。その中には自分を破滅させる穢れが詰まっていると思い込んでいた。長い歳月、怯えて生きてきた。必死で葛籠を隠し、蓋を押さえつけてきた。だが、いざ開いてみれば、中に詰まっていたのは哀しみだけだった。
横山 秀夫「クライマーズ・ハイ (文春文庫)」に収録 ページ位置:40% 作品を確認(amazon)
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......が淫売であろうが何であろうが、もはや四十になった男の弱みにも瑕疵にもなりようがなかった。 悠木は次の原稿を手元に引き寄せた。赤ペンを入れる手は止まらなかった。 心の奥底に葛籠を抱いていた。その中には自分を破滅させる穢れが詰まっていると思い込んでいた。長い歳月、怯えて生きてきた。必死で葛籠を隠し、蓋を押さえつけてきた。だが、いざ開いてみれば、中に詰まっていたのは哀しみだけだった。戦後の混乱期に夫に蒸発され、乳飲み子に泣かれ、ずるい目をした男たちに縋り、そして、誰一人葬式に現れてもくれぬ生涯を過ごした憐れな女が横たわっていただけだった。 ......
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